ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
ジェレミアと別れ、またしばらく迷い続けたなぎさ。
ひとしきり満足するまで迷ったら、軽く甘いものを食べに行きたくなった。
なので、ひまわり畑を抜けて『向日葵』へ。
冷たい緑茶とあんみつを、のんびりのんびりと。
ひまわり畑を眺めながら。

◆
「ここが『向日葵』ですね」
黒葛瑞樹は、店の周りをぐるりと見回す。
店の周りにも、ひまわりがいっぱいだ。
（暑くて出たくないーとか迷ってる内に、来るのが遅くなっちゃいました）
暑いのはともかく、店の場所はもうちょいちゃんと調べておいたほうがよかったかもしれない。
面倒くさがって、やらなかったんだけど。
ともかくここまで来たんだから、今日はたくさん食べていこう。
（お店の中から外のひまわりが見えるんですね）
良さそうな席を探して、きょろきょろと。
（うーん、人も多いし）
２人がけのテーブル席の中から、片方空いている一つが目に留まる。
それは、なぎさが座っているテーブルだ。
「ここ、お邪魔してもいいでしょうか？」
窓の向こうに意識をやっていたなぎさは、その声に我に返る。
「ああ、うん。大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
向かい合う形で、腰を降ろす。

（なにから食べるか……）
悩ましげに、瑞樹は品書きを眺める。
どれも美味しそうだが、ここまで暑かったしまずはかき氷？
（食べてるうちにきーんときちゃうかもですねー）
とか言ってるそばから、早速きーんと。
「いたたた……」
こういう時は確か、ええっと。
おもむろに、緑茶のグラスをおでこに当てる。
「……何やってるの？」
なぎさが不思議そうな顔を向けてくる。
「かき氷できーんときたので」
冷たいものをおでこに当てると、きーんはおさまるのだとか何とか。
「へえ、そうなんだ」
「ゆっくり食べれば起きにくいらしいんですけどね」
起きる時は起きる、ということか。
収まったので、あらためて。
「んー♪」
口へ運ぶごとに、瑞樹は目を細めて美味しそうな表情を浮かばせる。
一口一口、味わうように。
口の中に広がる甘さを、楽しみながら。
時折、冷たい緑茶を飲む。
甘くなった口には、緑茶の渋みがとてもよく合う。
（次は何がいいかなー）
他の人が食べているものを参考にしようと、視線を巡らせる。
向かいでなぎさが食べているあんみつに、あれがいいかななどと考え。
その視線に気付いたのか、なぎさがふと口を開いた。
「こんな贅沢な涼み方なんてないって、思わない？」
「はい？」
不意だったもので、つい聞き返してしまう。
しかしすぐに、言われた言葉を理解して。
「一面のひまわりとか夏の暑さを感じながら甘味をのんびりぼーっと楽しむのは、確かに贅沢かもしれませんね」
ちょっと年寄り臭いかな、なんて自分では思ってしまうのだけれども。

瑞樹の言葉に、なぎさは微笑む。
「ボクはさ、ひまわりがとても好きな花なんだ」
『好き』に囲まれるなんて、それはとても幸せなことだから。