「いぬ」のお手伝いさん｜リアクション

「いぬ」のお手伝いさん

　　【ヘイワの味方】

　キャットロードの真ん中で、灯斗南はしばし無言で立ってはその光景を眺めていた。
　キャットロードの両端には、日本甲冑を着たいぬが四足歩行で立ち並び、様々な手段をもってして「手伝います」という旨がダイナミックに伝わってくる。

　これでは「キャットロード」ではなく、実質上の「ドッグロード」である。
　どうせまた神魂の影響でどこかがおかしくなったに違いない。
　しかし、実害はなさそうだ、と。斗南は面倒そうに歩き始めた。
　……だが、十数匹では済まないいぬと、「手伝います」看板を見てしまえば、斗南とて血も涙も無い訳ではない。
　むしろ、無視をする都度心が痛んでくるようになっていた。
　その中で、甲冑が重いのかプルプルして、「お手伝いします」という文言と共に箱の中に座る小型犬などを目にしてしまった日には、もう。

　「……何で甲冑なんか着ているんだ」
　声を掛けずに入られなかった。斗南の敗北である。

　「こ、これはいぬの正装でござるワン。拙者は苦手でござるが、ご主人様が脱いで良いというまで脱いではならないしきたり(責務ではない)になっているでござるワン……
　と、ところで、そのご主人様を探しているでござるワン……！」
　「……分かった、もう言うな。
　僕がご主人様とやらになるから、甲冑を脱いで寛いだらどうだ」
　輝くいぬの顔。
　一方、斗南は「また一つ、自分からメンドイ事を拾いこんでしまった」と、どんよりとした顔を隠しきれない。
　「ご主人様は命の恩人でござるワン！　何としてでも何か手伝わせて欲しいワン！！」
　「いや……特に無いから」
　「お役に立ちたいでござるワン！！」
　斗南は、またこれは更に面倒なことになったと肺の奥から深くため息をついた──瞬間、

　目の前でやはりいぬに驚いていた老婦人のバッグが人目憚らず、若い男の手によって奪い取られた。
　──周りは、誰も気づいていない。

　斗南はまだ吐く息が残っていたのかと自分で思いつつも、小さなため息を一つついて。
　今までゆっくり歩いていたのから一転。
　弾ける様に飛び抜けた矢の如く、斗南はその場から逃げ出した引ったくり犯を追って走り始めた。
　置いてきぼりになったいぬも慌てて付いて行く──！

このページにイラストを設定する