「いぬ」のお手伝いさん｜リアクション

「いぬ」のお手伝いさん

　　【訪問お手伝い　～すみません、家間違えました！！～】

　「こ、ここだワン！　間違いないでござるワン！」
　ここにも１匹。同じように直感的な何かを信じて、星ヶ丘寮までやってきたいぬがいた。
　ご主人様に会えても、約束するまでは二足歩行での本領発揮は出来ない。その後に、他人に会っては四足歩行に戻るどころか、言葉まで喋れなくなってしまうのだ。

　一方、その家の主、羊飼依津は丁度これから、今まさに寝子島中に生息する猫達を愛でに行こうとするところだった。
　彼の世界の中は、犬か猫か、そのどちらかに分類される。
　もちろん人とて例外ではない。人であっても「犬か猫」どちらかであり、人によっては「わんちゃん」や「わんこ」呼び、ネコと決めた人間は「にゃんこ」「ねこちゃん」と呼ぶ。
　そして、扱いは平等に『ペット』……何が彼をここまでさせたのかは知らないが、狭くて広い寝子島世界。一人くらいこの様な人もいるのだろう。

　そして、運命の呼び鈴が押された。

　「間違いなく、ご主人様でござるワン！」
　シベリアンハスキーのいぬは、四本足からシャキッとした二本足で深々とお辞儀をする。
　「なにこのこぉ～かわい～
　うわーしかもしゃべるぅ立ってるぅ」
　依津は、驚くどころか喜びを隠さずに、早速慣れ親しんだ様子で、いぬの頭をなで繰り回す。
　いぬは、ここに来た経緯を事細かに説明した。
　「なぁに？　ネコよりイヌ？　お手伝い？」
　依津にとって、犬と猫は平等の生き物である。よって、その競争心はまるで分からなかったが、いぬが切実にそれを望んでいる事だけは分かった。

　「そっかあ、お手伝いねぇ……うーん、
　じゃあ俺の家で引越しのお手伝いしてくれないかなぁ。
　無駄に広いしまだダンボールだらけなんだよねぇ……片付けとかってめんどくさいじゃぁん？
　お客さんは無視しちゃっていいからぁ。ああ、でもあやしい人なら追い払っちゃってぇ。
　よろしくねぇ～」

　こうして依津は、いぬに自分の引越しの片付けと留守を任せて外に出た。
　いぬの話を総合すると、街中には他にも同じようないぬで溢れているはずである。
　「かわいいものは多いほうがいいよねぇ」
　依津はうきうきしながら、人通りも多いキャットロードがあるシーサイドタウンの方まで歩いていった。
　話によれば以前には同様の「ねこ」まで来ていたらしい。引っ越してきたのが遅かったのが悔やまれる。

　キャットロードは、並び立ち、もしくは箱に座る、日本甲冑を来たいぬ達によって大変な状態になっていた。
　そんな最中。依津はゆるく人差し指を挙げて宣言する。

　「役に立ちたい子は、この指とまれぇ」
　──その言葉に、数多のいぬが、一斉に依津に襲い掛かり押し倒すように集まった。

　その中から、可愛いくないからと甲冑を脱がせてまで吟味した可愛い犬を厳選し、つれて帰って来た時。
　「………………」
　「………………」

　最初に来たシベリアンハスキーは……引越し用の道具の中に見つけてしまった犬のおもちゃで、遊んでいた。それはもう思いっきり。
　「おばかな子には躾が必要だよねぇ」
　ぽつりと呟く、依津の言葉を最後に、シベリアンハスキーのか細い悲鳴が響き渡った。

　その後は連れて来たいぬ達が戦慄を隠せないままに、段ボールを潰したり、運んだり。
　作業は順調に進み、段ボールは綺麗に片付けられた。
　「良くやったねぇ」
　今もモップと化しているシベリアンハスキーを目にした際には「ご主人様を間違えました！」状態であったいぬ達も、今こうして依津に撫でられると悪い気はしない。

　「困ったことがあったらいつでも俺んとこに来てねぇ。
　みんな飼ってあげるよぉ」

　しかし──帰り際に掛けられた言葉に、人語を理解するいぬ達は恐怖のあまりわき目も振らずに全力で背中を向けて走り出したのは言うまでも無い……

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