【ようじょのらくえん】

　冴木 竜司は幸福であった。
　この上なく至福であった。

　何故なら「そこに幼女があったから」

　何故山に登るのか、そこに山があったから。この位の崇高気高い動機で竜司は幸福に浸りきっていた。
　ふと、幼女しか目に入らない状況下でも、魔法の如く目に入った看板には、空腹の原因と思わしきハマグリと試しに殻を叩いている人など。現在に必要な情報が入ってくる。
　看板の文字を見て竜司は思った。

　『　誰が　帰りなど　するものか　！　』

　幼女の楽園。それに滾る彼は生粋の変態だった。
　残念なことに変態だった。
　しかし、『Yes,ロリコン！　No,タッチ！』を実践する、紳士的な変態だった。
　結局、どんなに事実を並べても、変態である事には変わりなかった。非常に残念な事実だった。

　しかし、そんな彼にも空腹が襲い迫る。
　この世界の影響だろうと気付きながらも、それを元に真っ先に心配したのは可愛いかつ癒されるロリータ達の事だった。
　(注意書き：今回の彼の思考にショタは含まれておりません。予めご了承ください)

　「ハッ、俺がこんなに空腹という事は、ここの幼女達は更にお腹を空かせているに違いない！
　さあ、君達。蛤もいいけどニャルキー(とても有名な飴)はいかが？」
　ニャルキーは甘くてママの味。
　それを見つけた幼女となった人々は、幼い目を輝かせて、自分のやっていた事の手を止め一気に駆け寄ってきた。

　「えい！えい！はやくたべられるようになぁれ！」
　遠くで幼児化してハマグリに石を投げつけ、ストックが無くなれば最後には素手で殴り始めた、ふんわりとしたドレスワンピースに大きなリボンの女の子。
　そんな、とても砂浜に居るような姿ではない夢宮 瑠奈にも目ざとく声を掛ける。
　「君もニャルキーはいかが？　素手で殴ったらせっかくの可愛らしい紅葉の様な手を傷めてしまうじゃないか」

　そして、岩陰に隠れて様子を見ていた白沢先生。
　園児服を着て竜司的クリティカルヒットの彼女にも声を掛ける。
　「ささ、君もニャルキーがあるよ。怯えないで出ておいで」

　これが、完全なる変態であればマスタリングが掛かっていたであろう。
　しかし、紳士的なロリコンはセーフである。
　当方としては非常に惜しい話ではあった。

　その中には、何処から調達したのかスコップを持って砂まみれになった、矢萩 咲(ようじょ)の姿もあった。
　「わー！　大きな蛤すごいけど、ニャルキーもすごーい！
いっぱい食べたいな」
　目を輝かせた幼女に逆らう術を竜司は一切持たない。
　まず持とうとすら思わない。
　「沢山あるからどんどんお食べ～」

　こうして、竜司の周りは、幼女に囲まれた完全なる固有結界と化した。
　竜司は思わず至福のため息を漏らす。
　『ようじょって、いい……！』
　今、改めて幼女の素晴らしさに気づいた竜司であった。
　魂は幸せの余り天国へ旅立とうとしていた。


　その傍らで、集まった幼女の一人に見覚えのあった、一人の女性が近づいて来た。
　夜間の行動にあっても尚、藍色の着物が映える、哀坂 子夜。
　「おや…身体は小さいみたいだが……そこに居るのは……咲君に間違い無いみたいだね……」
　表情に、今にも淡雪のように消えてしまいそうな儚い僅かな笑みを浮かべて。子夜は咲の傍に近づいた。
　「お姉ちゃん、咲の事知ってるの？　ふーん……えい！」
　咲は突然、子夜の着物の中に潜り込み、彼女のパンティを神業の如く盗み取った。
　ちなみに、色は輝く王道の白。
　それを掲げてガッツポーズをする咲であったが、子夜は無反応だ。

　「……？　どうしたんだい……咲君……
　……何……かな……？」
　パンティを抜かれても平然としている子夜に、幼児化した咲はふくれっ面を隠さない。
　「えー…驚いてくれないの？
　あのね、もっと感情豊かだと幸せな事いっぱい見つけられるってお母さん言ってたよ！　だから、笑って♪」
　「………………」
　無垢な幼女の提案に、しかし、子夜はあくまでノーリアクション。
　「意図がよく……解らないな……
　命令なら……従うよ……」

　しばしの間の後、
　子夜が僅かに首を傾げた先には、アクティブ溢れる咲の姿は既に無く。
　ハマグリが放った霧で、複数人の服が一気に溶ける中、
　「あ！　蛤、お兄ちゃん達を虐めちゃ、めっ！！」
　幼児化状態での咲のろっこん【メガエラ・フォース】発動！

　【発動条件】負の感情(憤怒や嫉妬など)が一定値溜まる
　【能力】振りかざした拳から黒いビームを発射。一度撃ったら再度負の感情が溜まるまで撃てない

　しかし──大人よりも遥かにピュアな幼子に、高校一年の憤怒や嫉妬が出せる訳も無く。
ビームはハマグリの殻の一部に煙を上げさせるに留まった。
　「こうなったら実力行使ーーーっ！！」
　わーっと咲が全力でハマグリに突進していく！

　「ハッ！　あの蛤に立ち向かう幼女が！　守らなければっ！
　──！？」
　慌てて竜司が後を追い掛けようとしたところで、ドスン！　と一瞬、自重が無くなり、そして落ちた。
　ニャルキーをもらいに来る前から、咲が先ほどまで掘っていた『目的：皆に遊んでもらう為の落とし穴』にまんまと落ちたのである。

　「どいひーーーッ！」

　咲は戻ってくる気配が無い。自分は落とし穴に嵌ってしまい動けない。しかも、遠くからは「服が溶ける」という悲鳴がそこかしこに聞こえ始めた。
　しかも、その声には聞き覚えがある。
　「うおっ！　服溶けた！！」
　一番近いその叫び声。
　彼、握 利平の声は、仲こそ親密かはさておき『おっぱい』という運命で刻まれた、ソウルメイトの声ではなかったか。

　「きゃあっ！」
　そして、そんなに遠くない所で、更に咲の悲鳴が聞こえてきた。
　もしや服が溶けてしまったのではないか、一気にそんな心配から──それがエロティズムの対象になるまでには数瞬も要しなかった。

　「俺は！　幼女を！　守る！
　何より……幼女の下着姿見てぇ！！」

　彼は叫んだ。ざんねん極まりない内容を、魂の底から絶叫した。
　竜司のろっこん【性春パワー！】発動！！

　【発動条件】エロや幼女への想いを大声で叫ぶ
　【能力】エロとか幼女への想いで全身の筋力強化。叫び続ける程、筋肉は強化されていく

　ろっこんまで生粋だった──
　生粋の紳士あらんとする変態が、全身の筋力強化により自力で落とし穴を脱出し、咲の下に辿り付いた時、

　咲は砂のように溶けていく衣服の中で。
　そこから現れたのは、パステルカラーが愛くるしい可愛いボーダー柄パンツと……幼児用と侮る無かれ、大人に憧れる女の子向けのピンクのセクシーブラの上下セット！

　咲本人は特に気にしていない様子だが「幼女を守る」それを心に決めた竜司はいてもたってもいられずに、全力でハマグリへ特攻した！

　殻の堅さは、今まで複数のろっこん持ちが対処しようとして、失敗した難関。
　目撃したのは、石での攻撃に失敗し続けていた利平が、既に「大漁旗柄のトランクス」一丁で貝殻に最後の手段にダイビングヘッドをかまさんとする所だった。
　「待て、握！　その大きさで挟まれたら即死だぞ！！」
　遠くから作戦の思案と、キャンプ用品から何故か日曜大工用の鋸と綱を出していた、八神 修が友人のワイルドすぎるダイナミックさに思わず絶叫する。

　ハマグリは丁度貝の合わせを閉じようとしていたところ。
　間一髪で、竜司はその隙間に手を差し入れ、ろっこん【性春パワー】の力で一気に貝殻を押し開けた！

　「今だ！　やれ！」
　皆を守る事は幼女を守る事に繋がる。竜司は霧を全面に食らいながらも、自力で貝殻の蓋をこじ開ける事に成功した。

　ようじょが守れるのならば悔いは無い……
　覚悟を決めたその姿は、霧によって服が溶け既に赤褌一丁。　
　彼は「変態」と周囲に知られながら、それでも尚、ぶれずに戦う姿をもってして、今まさに神々しい光を放って輝いていた。