ドラゴン喚ぼうぜ！【蛤】｜リアクション

ドラゴン喚ぼうぜ！【蛤】

　　【それはまるで　誘拐と錯覚しそうな】
　
　木製で出来た『あなたは～、ハマグリを～、食べたくて～、仕方が無くなる～♪
(ハマグリを食べると元の世界へ帰れるよ☆)』看板(以下「ハマグリ喰える看板」)を目の前にして、小山内海は沈黙していた。
　幼い頃からの後遺症で声が出ない彼女であったが、それでもその無音の時間は沈黙と受け取っても間違いの無いものだった。
　あまりにもあんまりな看板に、思考を回そうとすれば軽くめまいを伴った。
　そして、広すぎる大海に目を向ければ、看板の内容通りに浜辺には大きなハマグリが。
　「(何故に蛤？)」
　極めて正論な海の心に答える者はいない。

　「(まぁ、いいや。とにかくこの蛤を倒せばいいんだね。
　……もうお腹が減ってしょうがないからさっさと倒してこの蛤食べちゃおう、うん)」
　海の思考も極論だったが正論だった。
　砂浜の石をスケッチブックに並べて乗せる様に拾えるだけ拾う。
　蛤に近づけるだけ近づいて、スケッチブックより僅かに浮かせたペンで線を引くと同時に上に並べていた石をペンで弾いていく。
　海のろっこん、【アクセラレイトライン】発動！

　【発動条件】筆記具で空間に線を引く
　【能力】筆記具（ペンや筆など）で描いた線の軌道に沿って物体を加速させる

　加速した石群による、貝殻への集中零距離射撃。
　激しい音を立ててその粉塵を撒き散らし、蛤の殻が削れていく。
　しかし、貝殻は抉れる様に表面からへこむ程度に削れた程度で
中身にまでは至らない。
　「(……何度かやれば──ん？　霧？)」
　巨大ハマグリの僅かに開いた合わせ口。
　そこから霧が噴き出し、海を直撃した！

　「(きゃ…っ！　え、服が……！）」
　霧の中で包み込むように。晴れた後にはまるで霧と同化してしまったかのように服が無くなり……そこには、露なまでの下着姿が。

　現れたのは、華奢な肢体に、黒と水色の縞々模様……そして、それを強調するかのように可愛らしいフリルのついた、上下お揃いの、下着──

　「(──────！！)」
　自分の姿を見下ろして、一気に顔を真っ赤にしてスケッチブックを抱え、海はその場に座り込んでしまった。

　「小山内ッ！！」

　状況を把握し人がハマグリに集まりつつある。
　そんな最中にいた、同じく異世界に飛ばされていた御剣刀が、海の状況に気付き、とっさにろっこん【加速】を発動させた！

　【発動条件】ガチン！と、撃鉄が落ちるイメージをする。
　【能力】自分の心身と、衣服や身に付けている物を加速して、高速行動ができるようになる。

　瞬時に、そして躊躇い無く。ろっこんを発動させて下着姿の海をお姫様だっこし、人の群から駆け抜けて、ハマグリから離れた所まで移動させる。
　一息ついたところで、ろっこんを解除し砂浜に海を降ろして、下着姿を隠すように自分の上着を海に着せた。
　「大丈夫か、小山内」
　掛けられた声に、あまりの速さにぼんやりしていた海は慌ててスケッチブックにペンを走らせた。
　『ありがとう　刀くん
　あ、うわぎ……ありがとう』
　「早く何とかしないと、被害者が増える一方だな」
　刀は、海の傍に預けるように肩に掛けていた自分のバッグを降ろして、木刀を伴い再びハマグリの方へ向かっていく。

　海はその姿を格好良いと見送りながら。
　──傍らでは背中を向けて戻りながら、刀がとっさに抱きかかえた際の海の柔らかい感触や。
　相対的に周りがゆっくりに見えるろっこん【加速】により、刀の目には、必然的にしかと目に焼きついてしまった海の下着姿で『可愛い』と胸をドキドキさせていた事については、幸か不幸か彼女に届く事は無かった。

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