ドラゴン喚ぼうぜ！【蛤】｜リアクション

ドラゴン喚ぼうぜ！【蛤】

　　【鉄板焼きと欠食幼児の正体は】

　皆が着々と料理を進める最中、傍のガスコンロでは旅鴉月詠が良い匂いを漂わせ始めた焼きハマグリステーキを作っていた。
　他に吸い物などを思案していたが、料理を作る者、この機会に学ぼうとする者も多く、当分他のコンロは空きそうにない。
　
　全部が出揃ってからでは、料理が冷めてしまう為、調理した者を優先にしつつも振舞われたものを皆で一気に食べていこうという暗黙の了解が発生していた。
　その為、まだ調理者優先の為、全員にはいきわたっていないものの、ハマグリはあっという間に調理者に確保され、残すのは木っ端微塵の上殻とその身によって完全に無事だった下貝のみとなった。
　だがしかし、巨大ハマグリを倒しても溶けてしまった服は元には戻らず、幼児化した者も元の姿に帰らない。

　それらを不審に思いながらも、かなりの肉厚となりそうなステーキを傍らにしていると、
　「……じゅるり」
　「ん……？」
　見ると、一人の幼女が指をくわえてよだれを垂らしていた。
　名札には「しらさわ　あやこ」の文字。

　「……なる程、そういう事だね」
　やっと理解した、と思い周囲の腹ペコ軍団にとって、既に食材としてしか認識されなくなったハマグリを待つ人々に向かって告げた。
　「すまないが、誰かこの少女に優先的に料理を」

　周囲は騒然とした。大人気なさマックスだがどんなに凌いでもろっこん影響の受けた空腹だけは堪え難い。
　それをここまで抑えてこれたのだから、むしろ理性値は高かったと賞賛しても良い位だ。

　「幼児化は恐らくこの子の──家庭科教諭の白沢絢子先生のろっこんだ。
　先生をお腹一杯にすれば、少なくとも幼児化だけは解けるだろうね」
　
　その事実に、周囲は驚きを隠しきれず、騒然を通り越した、が。
　「じゃあ、詠ちゃん。幼児化した人に優先して食事を渡しましょう。
　ごはんは、お家での朝、昼、晩の三食ごはんでなければ、子供優先って決まっているもの」
　北原みゆきが正論を告げれば、これ以上ぼやくのは精神年齢が判明してしまう為、皆必死に我慢する。

　「ろっこん？　何かの忍術じゃけんのう？
　まあ、良いわ！！　わいはカレーさえ食える事が決まっていれば空腹なんぞいくらでも堪えられる！！」
　これでも「ひと」……見るからに絶滅危惧種番長の鬼河内巌にまで大きな声で笑われてしまわれては、更には己の器まで知られてしまう。
　こうして反論する者はいなくなり、料理は子供達優先に渡される事になった。

　しかし傍らで、空いたガスコンロで必死になって包丁を握り、鬼気迫る表情で貝柱を切っては、一所懸命何度も味見をしていた小山内海にまでには全く気付くことなく届かなかったが……
　