【ネコミケ】萌えろ！２日目の幻想バトルロイヤル！｜リアクション

【ネコミケ】萌えろ！２日目の幻想バトルロイヤル！

<９>

　一方で会場内のカオスを煽るような行動を起こす者もいた。

「ハァイ！　戌貝腐姉妹の“同じ眼鏡を５つ持っている方”、ふたたん（ＰＮ）です！」
　本名、戌貝二一。職業：腐女子。~~マタ大学生？　なにそれオイシイの？~~
　普段はオタク趣味のためにバイトをして軍資金稼ぎに勤しむ腐女子の鑑である。
　~~講義？　いえ、知らない子ですね。~~
「というわけでサークル参加してたんですけどなんか凄いことになってますよー？　あの黒い羽が刺さった同人誌から、表紙のキャラとか出てきたよね？」
　なぜ彼女がナレーション口調なのかといえば、スマホの動画で録画しているからだ。
「これは便乗するしかありませんよ！　この黒い羽を使えば……！」
　戌貝は引き抜いた黒い羽を自分の同人誌に何本も突き刺した！
「さぁ出てきて！　スライム！　触手！　私の前に姿を見せて！」
　彼女は祈るように同人誌の前に跪いた。
「とりあえず死角からぬるぬる這い寄って近づくでしょう？　いきなり足に巻き付いて吊り上げてＭ字開脚にしちゃうでしょ？　んでこう、ぬるぬると敏感になる粘液を塗り込むでしょう？　細い触手なら服の中まで入っていくんだよね！　植物系の触手は、花から弛緩する匂いを出して相手を抵抗できなくするのよー。そういうのが見たいわよ！　見たいから書いてるのよ、徹夜してまで！　まぁ、そこから先はご察しですけど。スライムとか触手とか、素晴らしいと思います！　大好き！　はい、ぷすー！」
　……しかし、何も反応がない。
「あれ？　おかしいですね？　もう一度、えいっ」
　プスプスと別の同人誌に羽根を突き刺すが、一向に何も起きない。
「……どうしてなのー？　これじゃあ、私のヌメヌメパラダイスの実現が叶わないわよー！」
　戌貝は、深い悲しみに包まれていった。

　アホー　アホー　アホー

　カラスの鳴き声が、戌貝の上空に虚しく響き渡っていた。
　だが、戌貝二一は諦めない。
　彼女は触手ラブなのだ。
　彼女はスライムを渇望しているのだ。
　この程度で、その信条が揺らぐなんて、言語道断である！
「あ！　あんなところに、素敵な触手さんを連れたお姉さんを発見しましたよ！」
　スマホの撮影を続けながら、突撃インタビュアーと化した戌貝が、鷹峰凪と触手生物のタマちゃんの前に立ち塞がった。
「ハァイ！　戌貝腐姉妹の“間接照明にこだわる方”、ふたたん（ＰＮ）です！　突然ですが、そのコ、素敵な触手さんですね！」
　鷹峰は、ハッと目を見開いた。
「あなた……、うちのタマちゃんの愛くるしさが分かるのね？」
「それは勿論ですとも！」
　戌貝は目を輝かせる。
「その艶、その体液の粘度、その不気味さ！　これぞパーフェクト！」
「当然よ、だって、うちの息子だもの」
　鷹峰がタマちゃんを抱き寄せると、触手生物も甘えるように彼女に擦り寄ってきた。
「わぁ、お利口さんなのね！」
「親に似たのよ……。そしてとても親孝行なの。うちが襲われそうになると、身を挺して庇ってくれてね？」
　興奮する戌貝に向けて、鷹峰の親バカが炸裂する。
「はた迷惑なヒーロー共は、タマちゃんをけしかけゲフンゲフン、……タマちゃんが庇ってくれたから……。奴らの精気吸い取って、大分強くなったみたい。うちとしても嬉しいわ」
「じゃあ、次の獲物は、あのお姉さんなんてどう？」
　戌貝が指差す奥の地で、青龍はBL同人誌を読み漁って御満悦中。
「いいよねー。乱れる和服大好き。こう、祓魔師の巫女さんが、触手退治に来て返り討ちに遭うのって鉄板だよねー」
「巫女というか、宿屋の女将っぽいけど……。まぁいいわ。弱そうだし」
「いけいけー！　あのお姉さんを気持ち良くさせちゃえー！」
　タマちゃんはそのまま、重戦車のように前にいる人物を絡め取って生気を吸い取って吐き出していく。
「自分のエゴを主張してる自称主人公（笑）達をメチャメチャにしなさい……。美しくない糞どもは２次元・３次元問わず絞り尽くすのよ……。精々、うちのデッサンの糧になるといいわ……」
　タマちゃんはママの言い付けをキチンと守り、青龍へと一直線に向かっていくのであった。
　そんな２人を、後ろから憎悪たっぷりに睨み付ける吉祥寺黒子と冴木白虎。
　彼女たちがここまで来るまで、幾多の試練を乗り越えてきたのだ。