<10>

　時は２人がタマちゃんにペロペロされた後まで遡る。
「何だか、相変わらずカオスっていうか……」
　ところ構わずドンパチやり続けているキャラ達の合間を縫ってタマちゃんの痕跡を辿る吉祥寺たち。
　そこへ寝子島のエロストップランカーである横嶋 下心とバッタリ遭遇！
「麗しきおっぱい女神じゃないか！　こんなところで出会うなんて運命だね！　その戦闘服のコスプレも似合ってるよ！　記念に揉ませて下さい！」
「なんで変態の横嶋がいるんだよ！　胸を触ったら許さねぇ！」
　泣きっ面に蜂とは、まさにこのことである。
　学園ストライカーズの戦闘服で強調されたバストラインを腕で隠す吉祥寺の前に、白虎がガードに入った。
「ヒーローもどきも大概だが、そこの変態うざい！　下らない戦いやエロスはよそでやれ！」
「ん？　そっちのお姉さんは女神に比べると、うーん……」
　横嶋は言葉を濁した。
　これに白虎、こめかみをにわかに痙攣させる。
「あ？　あんた、何が言いたいワケ？」
　凄む彼女に横嶋は断言した。
「えっと、残念なまな板おっぱいだなぁって。でも安心してくれ！　異性に揉まれると、おっぱいは大きくなるんだ！　だからおっぱい揉ませて下さい！」
「誰が残念なまな板だアァン！？　てか揉ませるかボケ！」
　白虎の怒髪天を向き、横嶋に向かって拳を振り上げる。
「私は、貧乳のことを弄られると、昔から暴力的になるのよね……。■しちゃったらごめんね？」
「ちょ、お姉さん？　ハイライト消えた目で殴り掛からないで！」
　横嶋は狼狽している。
　それでも両手をワキワキ開閉させておっぱいを狙う精神は紳士（へんたい）の矜持といえよう。
「クソ、これじゃジリ貧だぜ……。こうなったら奥の手だ！」
　吉祥寺は舌に彫られた『幸運』の刺青を出しながら言った。
「大丈夫だ、『俺は幸運だ』から、必ず助かる！」
　この瞬間、吉祥寺のろっこん『ラクシュミーの寵愛』が発動する！
　次の瞬間、３人に不意打ちの光線が照射された！
「「ひ　で　ぶ」」
　３人ともばたりと倒れ、気を失ってしまう。

　どれくらい時間が経ったか、白虎は目を覚ました。
「いやー死ぬところだったわー、ギャグ補正大有りの天国じゃなかったら死んでたわーまじでー」
　実に抑揚のない口調である。
　彼女が起きたのは、先に気が付いた吉祥寺が放つ大爆音に耐えられなかったからだ。
「……クロ、何してるの！？」
　白虎は唖然としていた。
　吉祥寺が『戦闘城塞マサムネ８』のＲＯＣＫなヒロイン『ミレーネ』の格好でギターを掻き鳴らしながらシャウトしていたのだ。
「俺のROCKを聞きやがRE！」
　そしてギターで同人誌から出てきたキャラを殴打していたのだ。
「お前ら！　ROCK（物理）するぜYO！」
「つよい」
　白虎は確信した。
　そんな白虎は、学園ストライカーズの衣装から、純白の鎧にジーンズという出で立ちだった。
　彼女はキメ顔で呟いた。
「『そんな装備で大丈夫か？』『一番いい物を頼む』……なんか言わなきゃいけない気がしたわ」
　白虎は自身のろっこんを発動させようとしたが、ダメージがほぼ服に伝搬する世界の法則を察し、思わず舌打ちをした。
「手に塗り付ける程の出血させるためだけに自傷するのもアレだし、ここはこのキャラの武器をイメージして……」
　白虎がイメージを練り上げれば、盾に虎の鉤爪が付いたような篭手が具現化した。
「原作は盾だけど、私のろっこんの形状をプラスしてみたわ。なかなかイイ感じ！」
　ギターをモブ魔法少女の脳天に振り下ろす吉祥寺が、白虎の姿を見てサムズアップ。
「お、シロの武器もROCKじゃねーか！　俺が演奏（物理）で惹き付けるから、シロは道を切り開いてくれ！」
「任せろ！　……エセ主人公たち、脱がされたい奴から掛かってこいや！　もう何も怖くない！」
　こうして、息のあったコンビネーションを２人は披露し、ようやく仇敵の前まで漕ぎ着けたのだった！

「HEY！　ここで会ったが百年目だYO、凪！　さあ、大人しくその触手をボコらせNA！」
　ジャカジャーンッと吉祥寺がギター音をうねらせた。
「見つけた、凪！　さっきはよくも見捨ててくれたわね！」
　白虎も篭手を構えて臨戦態勢に。
　ちなみに、彼女は継戦途中で上半身の鎧は吹き飛び、ニプレスとジーンズだけが残っていた。
　あまりの平坦さで、男性の身体に見えてしまうのが非常に悔やまれる。
　２人が今にも殴り掛からんとしている様子に、鷹峰がタマちゃんの前に立ちはだかる。
「ストップ、クロちゃん、シロ。怒ってるわよね……。すまないと思ってるわ。冷静になって気が付いたの。親友に酷いことしてしまって後悔してるのよ」
「白々しいぜ、凪！」
　吉祥寺もギターを正眼に構えて威圧する。
「ちょっと待ったぁ！　触手さんをいじめちゃダメ！　触手は素晴らしいの、スライムは美しいの！　なんでそれを拒むの？」
　戌貝も必死にシロクロコンビの前に出て説得を試みる。
　鷹峰は目を伏せて、憂いを込めた表情を見せる。
「信じてもらえないのも当然だわ。贖罪の為にシロ、今度うちの会社のイケメン社員との合コンセッティングしてあげようと思ったけど、許してくれないならお流れになりそうね」
「……イケメン社員と合コン……。フン、私もナメられたものね？」
　ニヒルに微笑む白虎はワイルドに吠えた！
「スケジュール開けるから早急にセッティングしなさいよ！　あたし達、親友でしょ♪」
　白虎、陥落！
　怒りより性欲が勝った瞬間である。
　鷹峰は続けた。
「クロちゃん……。うちの事、こき使っていいわ……。どんな辱めも受けるわ」
「いや、俺は別に凪にそんな事させたくてここに来たわけじゃなくて……、その触手をけしかけたことを謝ってくれれば、それでいいんだぜ？」
　しおらしい態度の鷹峰に吉祥寺は思わずたじろいだ。
　これに鷹峰は諦観の念を強めた。
「……信じてくれないのね。分かったわ。タマちゃん、ママを食べなさい」
「おい！　何言ってるんだ！」
　吉祥寺は目を剥いた。
　戌貝は期待感でワクテカしている。
「だって……、許してくれないなら、うちもタマちゃんの餌食になって……」
　戌貝は期待感でワクテカしている！
「だからそうする必要ねぇだろ！」
　吉祥寺は鷹峰の手を引いてハグをした。
「すまねェ。俺は親友を信じてやれなかった……。凪の想い、しっかり伝わったぜ！」
　吉祥寺は友情の涙を溢れさせていた。
　鷹峰も微笑み、吉祥寺の体から離れた。
　そして彼女の口元は弧を描く。
「ちょろい」
　その一言がきっかけに、タマちゃんが再び白黒コンビを襲う！
「「なんでだー！？」」
　白黒コンビの断末魔に、鷹峰は悪びれもなく言ってのけた。
「タマちゃんを強くして、最強を証明してあげたいの。そのための餌になってね？」
　邪悪極まりない微笑みを振る舞いながら、鷹峰は言い放った。
「私たち、親友だもの……♪」
　戌貝は目を輝かせてニヤニヤしている！

　こうして、搾り取られた白黒コンビの亡骸をあとに、鷹峰と戌貝のコンビは青龍のもとへ向かう。
　……と思った矢先だった。

「この国賊がッ！」

　飛び掛ってくる小さな軍服姿の人影！
　鷹峰は避けること能わず、その首を刎ね飛ばされてしまった！
　当然、衣服は完全に吹き飛んだ。
　全裸の首なし肢体がゴロンと転がった。
　つまり、オーバーキルである。
　打ち首にされた鷹峰に、怯えるあまり悲鳴すら上がらない戌貝。
「憲兵小尉、鈴野 海斗である！　神聖なお国の風紀を乱す莫迦者どもが！　この場で粛清してくれるわ！」
　憲兵小尉カイトくん、堂々見参！
「その奇っ怪なアヤカシもこの場で叩き切ってくれよう。覚悟しろ！」
「きゃあぁぁぁー！？」
　パニックになった戌貝は、鷹峰の生首を抱えてタマちゃんを連れて逃走開始。
「まて、逃がすか！」
　鈴野大尉も発砲しながら戌貝たちの後を追跡し始めた。