ひと夏のろっこん｜リアクション

ひと夏のろっこん

○入れ替わっちゃったんだよ

　笹森清真は、自転車でシーサードタウンを疾走していた。
　剣道の稽古が午前で終わった帰り道。
　毎日汗をかいているが、正直暑いのは苦手な方だったりする。
「風がないから自転車でもほとんど涼しくならないし、こういう日はマジで参るな」
（とっとと帰るか、それともエアコンの効いたどこかの店に入って冷たい物でも飲むか……）
　その時、お買い物をしにシーサイドタウンまで来ていた鈴原天音とすれ違う。
　天音はサイドテールを揺らしながらつぶやいた。
「なんだか辺りが騒がしいんだよー？　何かあったのかな？」
　駅前で、髪の長い女子と赤毛の男子が何か喜び合っている。
「……つ、疲れた……ようやく戻ったよ……癒しが……癒しが欲しいよ……」
「よ、よかった……戻った……僕もいやしが……いやしがほしい……しょたー、うおおん……しょたー」
「オッサン……オッサンくれぇ……」
（……聞かなかったことにしよう）
　と思った清真だが、ポジティブで天然な天音は純粋に興味を持ってしまった。
「なんだろ？　近くまで行きたいな。届け！」
　二人を見ながら、なんとなく頭に浮かんだまま言葉を発すると。
　途端に天音は七緒璃音とロベルト・エメリヤノフの前に瞬間移動していた。
「何？　今の、俺のろっこんと同じ……？」
　驚いて清真が自転車を降り、自分のろっこん「セツナトリップ」を使おうとして、無意識にジャンプした。
「移動できない？」
　セツナトリップは、対象を視界に入れ「届け」と念じると対象の目の前に瞬間移動できるというろっこんだ。
　だが、清真の体は移動せずその代わりに。
「な、なんだ！？　体が、軽い？」　
（また変な力に目覚めちまったのか！？）
　一瞬パニックに陥ったが、清真は自分のろっこんを使った少女を追うことにした。
　なんとなく、今ジャンプしたのが原因な気がする。

　瞬間移動した天音のほうは。
「……ん？　あれれ？　何これ、ろっこん？　でも私のろっこんは重力操作のはずなんだよ？　あれ、あれれ？　どうなってるのかさっぱりなんだよー！」
　急に場所が変わったことに驚いていた。
「ん？　君もろっこん入れ替わったの？　ウチらはやっと戻ったところ」
　璃音が眼鏡に手をかけながら言う。
「ロベルトーお前でいいよオッサン姿見せろよーウチの事ショタにしてもいいから今なら許すからさー」
　ロベルトは爽やかに笑い、璃音の肩に触れる。
「しょうがないなあ……じゃあお言葉に甘えて……ショタになってよ七緒ー！」
　途端に璃音は、可愛らしい少年に変身した。服装も少年らしい半ズボンである。
「でゅわっ」　
　愛らしい少年姿で呟くと、ニヤニヤとロベルトを眺める。
「「はあ、いやされる……」」
　二人は満足そうにお互いの姿を愛でるのだった。
「これはいったい……？」　
　走るというより空中をスキップするようにその場にたどり着いた清真が、あっけに取られる。
「あれ？　あなたのろっこん、私のやつっぽい！　もしかして、ろっこんが入れ替わっちゃってるんだよー！？」
　天音が清真の様子を見て、声を上げた。
「な、なんだと……？」