ひと夏のろっこん｜リアクション

ひと夏のろっこん

　屑利執は、シーサイドタウンの自宅で粗茶を啜っていた。
　最近は神魂関連を科学的に解明する事に命を燃やしている彼だが、たまにはまったりしてもいいだろう。
　だから彼は、この日外で起きていることを知らない。

○正反対の嗜好

「はー今日も眼福眼福……」
　七緒璃音は、ろっこん『加齢・ド・スコープ』で道行くオッサン化した男性を眺めて楽しんでいた。
　眼鏡をかけて「でゅわっ」と呟くと、眼鏡越しに、男性の外見年齢が40～50代に変化して見えるようになる。
　オッサン好きな彼女にとってはこの上ない能力だ。
　しかし真逆な嗜好の持ち主もいる。
「いい美形いないかなーショタにできたらなー。うおっこれは！」
　オッサンに見とれていた璃音は、ロベルト・エメリヤノフにぶつかった。璃音の眼鏡が落ちる。
「長髪だけどなかなかの……って七緒じゃん間違えたよ」
「……っと、ごめんなさい！　……何だロベかじゃあいいや」
「いいや、ってオイ……またアレやってたのかい？　こう……『でゅわっ』ってやつ」
　落ちた眼鏡を拾い上げたロベルトは、ふざけてそれを自分の顔に当てた。
「ん？　なんか違和感が。そういやさっきぶつかったとき、ろっこん発動しそうになったんだけど、七緒ショタになってないな？」
「なんであたしがショタにならなきゃならないのよ」
　ロベルトのろっこん『Прекрасный мальчик』は、興奮しつつ相手を強く思いながら触れると人間が少年化する、というものだ。
「眼鏡返してよ。でゅわっ……ってあれ？　オッサンが見えない！　何か……違和感……」
　ロベルトから眼鏡を取り返し、ろっこんを発動させようとする璃音だが。
「そーそーそれそ……ん？　なんか違和感。今オッサンが見えたんだけど」
「もしかして……」
　璃音は唐突にさっきねこったーで見た事件の呟きを思い出し、スマホに表示させた。
『オレのろっこんを返せ……入れ替わるなんてそんな馬鹿な』
　それは、ろっこんが入れ替わって災難にあった生徒会長の書き込みだった。

「もしかしてろっこんが入れ替わってるー！？　勘弁してくれ……オッサンの姿が見れなくなるとか絶望だ……」
「ってうそーマジでろっこん入れ替わってるの！？　メガネかけたらおっさんとか……こっちこそ勘弁してくれよ……それに美形をショタに出来ないとか……僕のささやかな楽しみをどうしてくれんだよ七緒！！」
　怒りかけたロベルトだったが。
「原因は分からんがそれもこれもロベルトお前が相手をショタ化するろっこんを持ってるからやー！」
　璃音の怒りの表明はさらに大きかった。
「ってやめろよ！　八つ当たりやめろよ！」
「八つ当たり？　そんなの分かってるわ八つ当たりしないとやってらんねー！」
「僕にも原因はわからないけどそっちにも原因は……あるんだからな！　たぶん！」
「こうなったら、ロベルトお前をショタにしてや……」
　言いかけた璃音だったが。
「僕がショタになっても……あ……七緒いま鏡持ってる？」
　急に嬉しそうになるロベルト。
「って駄目だこれロベが喜ぶだけだー！」
「じゃあ僕も七緒がオッサンになった姿……」
「残念、男限定なの」
「僕のろっこんは男女平等なんだけどな」
　一般人を巻き込むわけにもいかず、不毛な論争が続く。

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