ひと夏のろっこん｜リアクション

ひと夏のろっこん

「うわわ、どうしよう！？」
　一瞬慌てた天音だが。
（……あ、でも、この状況は楽しいかもしれないんだよ）
　ポジティブに考えを切り替える。
「自分のじゃないろっこんが使えるって、案外楽しいかもなんだよー♪」
「相手に発動条件を聞いておけばトラブルも起こらない……よな？」
　清真も冷静さを取り戻したようだ。
「とりあえず炎天下で考え事なんかしたくもない。元に戻る方法を考えるなら涼しい所でするぞ」
　周囲を見た清真は近くにあったファーストフード店を指差した。
「元に戻る前に、ちょっとだけこのろっこんで遊びたいんだよ」
　目を輝かせ遊ぶ気満々な天音に、清真は言う。
「いいから行くぞ。飲み物だけなら奢ってもいい」
「それなら行くー。あ、ちょっとろっこん使ってみて。軽くなれ、と思いながらその場で一回ジャンプなんだよ」
「？」
　言われた通りジャンプすると、清真の体が軽くなった。すかさず天音が清真の腕を取る。
「うわー、軽い♪　抱っこできそう。あ、いい使い方思いついたかも」
「お、おい……」
　天音のろっこん「アンチェイン・エア」は、自分と、自分が身につけている物にかかる重力を重くしたり軽くしたりできる能力だ。
「それじゃ、届け！」
　腕を握ったまま天音が清真のろっこんを発動させたが、天音のみがファーストフード店の前に瞬間移動した。
「うーん、軽いから荷物扱いで２人一緒に移動できると思ったんだけど、無理なんだよ」
「荷物扱いするな」　　
　清真が軽やかに追いついてくる。幸い誰も瞬間移動には気づかなかったようだ。
　二人はファーストフード店に入った。

「いやー涼しいなー……エアコンを発明した奴はマジで偉大だよな」
　席につき、汗をぬぐいながらエアコンを満喫する清真。
「ほんとー。天才なんだよ！　あ、メニューメニュー。ねえ、飲み物って、デザートもいいよね？」
「あんまり高いのは勘弁してくれ……、えーと、中学生かな？」
　小柄で子供っぽい天音はどうみても小中学生くらいに見えるのだが。
「高校生！　小さいと思った？」
　ふくれる天音に清真はごまかす。
「いやいや、そんなことはないが。あ、注文決まったら俺頼んでくる。元に戻る方法も考えてるからな。そっちも考えてくれよ？」
　注文しに立ち上がった清真だが、荷物の上をまたぐとき、ちょっとジャンプする形になった。
「うわっ」　
　体が軽くなり、他の人に吹っ飛ばされそうになった。　
　無意識にろっこんが発動したようだ。
　冷や汗をかきながら注文を済ませる。
（……とりあえず器物破損には気を付けないとな）
「他の人が私のろっこんをどう使うのか、ちょっと観察もしてみたいと思ってたけど。あんなこともあるのかー。またまた発見なんだよー」
　見ていた天音は楽しそうだ。
「やれやれ。それより、戻る方法だ。俺たちぶつかったわけでもないのに、どうして入れ替わったんだろう？」　
「うーん、さっき体に触っても戻らなかったよねえ。もどれー！　って念じてみるとか？」
「やってみるか……」　
　二人が念じ始めて間もなく。店員さんがデザートを運んできた。
「あ、それ私のー！」
　手を挙げた天音は、自分が発した少年の声に驚いた。
「あ、あれ？　声が？」　
　目の前にいるのは背の高い少年ではなく、小さい少女……自分そっくりの。
「えー、今度は体が入れ替わっちゃってるんだよー！？」
「な、なんだと……」
　天音の体と入れ替わった清真は、青ざめてつぶやいたのだった。
　

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