ひと夏のろっこん｜リアクション

ひと夏のろっこん

　しばらく好き放題に沼田をこき使った巴は、刀と海と未沙が絡み合う現場にやってきた。
「やれやれ……想像はしてたが酷いね。おっさん、あれを止めとくれ」
「無茶言わないでください」
　困ったように頭をかく沼田。
「何？　召喚獣の癖に生意気な」
　沼田の顔がこわばった。
「召喚……獣？　私は獣扱いですか？　それに私だって、何でもできるわけじゃないです」
「まあまあ、そう怒るんじゃないよ。頭から湯気が出てるんじゃないかい？　髪が無くとも怒髪天、ってかい？」
　巴が場をほぐそうと言った冗談が、沼田の形相を鬼に変えた。
「ハゲじゃない！　不毛ではない、まだ残っている！」
　あの大人しかった沼田はどこへ行ったのか。彼は今や嵐のごとき迫力で巴に迫っていた。　
「誰だって触れられたくないことはあるんだ、若くて髪が豊かだからって人の痛みをわからなくていいってことがあるか！」
　屁理屈を振り翳す我儘な相手に憤り、怒鳴ることで相手に屁理屈と自覚させる。
　それは巴のろっこん「カイシンの一喝」の発動だった。
「ま、待ちな、髪の事を言ったのは悪かった！　落ち着けって！　ああ畜生、こんなにも素直に謝りたくなったのは久々だね！」
　さしもの巴も謝らざるを得なかった。
　まだ怒りが静まらない様子の沼田さんだったが、ろっこんの効果が切れたのかふっと消えてしまった。
「やれやれ、助かった……」
　

　社会的に死亡かと思われた刀だが、ろっこんのレベルが低いのが幸いしたか長くは続かなかった。
　触手は未沙と海を解放し、無事手足に戻った。
　だがめでたしめでたし……では済まない。
「もうお嫁にいけない、責任取ってよね！！！」
　真っ赤になって未沙が叫ぶ間、海は震えながらスケッチブックに文字を書いた。
『ば　か』
そして、頭の中で撃鉄を落とす。
　スケッチブックが、高速で刀の顔に炸裂、連撃する！
「イタイイタイ、小山内痛いよ！」
　怒りの１６連射！
　怒っていたはずの未沙もちょっとだけ思った。
（海さんがいるときはろっこんの発動に気をつけたほうがいいかも……）
「本当にスイマセンでした！」
　スケッチブックの打撃で頬が赤くなったまま、土下座して謝る刀。
　あんな事やこんな事をした記憶と感触はバッチリ残っている。
（あんな強烈な体験が簡単に忘れられるか！）
　だが口が裂けてもそんなことは言えないのだった。

　そのころ、屑利執は相変わらず家でまったりしていた。
「平和な一日だったが、なんだか疲れたな。だがそろそろ研究にかからなくては」

　日が暮れる前には、皆の入れ替わりは元に戻ったらしい。

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