故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●思い出と焼き鳥と

　音海なぎさの実家は、新千歳空港から快速エアポートで２時間程度の北海道美唄市にある。
　日本一の収穫量を誇る特産品農産物のハスカップ、特産品の美唄焼き鳥が有名な地域だ。
（前に帰省した時、親戚の家のおみやげ屋のバイトをしたことを思い出すな）
　修学旅行に来た寝子高の生徒が来たので、バレてしまうと心配したが、女の子の服を着せられていたのでバレずに済んだ。
　その時に訪れた登別とは新千歳空港からの所要時間がだいたい同じだ。
　なので、親戚の家に立ち寄ろうと思ったが、橘明里がいるので、普通に実家に帰ることに。
「せんぱい、はやくー！」
　早くなぎさの実家に行きたくて仕方がない明里が走ろうとした時、誰かの背中にぶつかった。
「誰だい？」
　ぶつかったは、偶然にもなぎさ達と同じ快速に乗っていた伊賀解理だった。
「ごめんなさいなの！　早くせんぱいのおうちに行きたかったから……」
「そうかい。早く行きたいのはいいけど、走っちゃ駄目だ」
　駄目じゃないか、と明里に追いついたなぎさは「ごめんね」と謝る。
「いいって。そういえば、君達、寝子島から一緒だったような気がするんだけど……」
「僕達も寝子島から北海道に来たんだ。僕は寝子高２年の音海なぎさ。この子は１年の橘明里だよ」
「たちばなあかりなの！　よろしくなの！」
　寝子高生同士ということで気が合い、実家はどこだという話に。
「君も美唄市なんだ。僕もだよ」
「そうなんだ。よかったら、途中まで一緒に行かない？」
「悪いけど、僕は寄るところがあるから」
　それじゃ、と解理はなぎさ達と別れた。

「さて、せっかくの夏休み。久々に北の大地にある我が家に帰ろうじゃないか」
　解理曰く。３人組のローカルヒーロー、時折流れる妙な歌も有名だよ。
　実家に行く前に、予約しておいた焼き鳥屋へ。
「美唄に帰ってきたなら、まず美唄焼き鳥を食わねば」
　店に着くなり、ひとつの串に鶏の皮や内臓の各部位を刺した焼き鳥の良い匂いが。
「いいねぇ、この匂い。おじさん、せせり（鶏の首の剥き身で一羽からわずかしか取れない部位）ちょうだい！　あとモツ串！」
　せせりは予約しておく必要があったので、帰省前に予約しておいた。
　持ち帰るまでには時間がかかったが、お目当ての焼き鳥が買えたので解理はニンマリ。

　焼き鳥を購入したら、そのまま美唄神社へ足を運ぶ。
（信仰心はないけど、一応、帰宅の報告ぐらいはしておこうか）
　鳥居に向かうと、その前には、満面の笑みで仁王立ちをしている色黒の丸坊主の人物がいた。
「もしかして……」
　見覚えがある人物に駆け寄り、声をかける。
「もしかして君はブラジルか！　懐かしいな！」
　色黒の丸坊主の「ブラジル」と呼ばれた人物は女で、夏は半袖短パン、冬でも似たような感じの格好で過ごしている。
　外見に違わずかなり活発な元気っ子なので、ついたあだ名がブラジルだった。
　誰かつけたあだ名なのかは思い出せず。
「ブラジル、焼き鳥、食べる？　せせりがあるよ」
　コクンと頷き、解理から焼き鳥を受け取るブラジル。
　焼き鳥を頬張りながら、ふたりは神社の横の石段に腰掛け近況を語り合った。

「僕は今、神奈川にある寝子島ってところに住んでるんだ。ここでは、いろいろな出来事があったよ」
　遺跡探検に天の川鑑賞会に海開き。
　寝子高での授業や行事も思い出深い出来事だ。
「君は今、何をしているんだい？」
　ブラジルが言うには、北のキセキと呼ばれる五人の天才高校女子バスケ選手と戦ってたり。
　太陽系の世代と呼ばれる天才女子サッカーチームの面々と戦ってたりと、いろいろ忙しい……ようで。
「……相変わらずツッコミどころしかないな」
　何はともあれ、会えたんだからゆっくり話でもと思いきや、ブラジルは、これから行くところがあると言う。
「……えっ、これからアメリカ帰りの「まだまだだね」が口癖の中学生テニスプレイヤーと試合するだと！？」
　その中学生テニスプレイヤーも、ブラジル同様、女である。
「僕に試合を見に来いだと！？　いや、僕はこれから実家に帰って……って話を聞け！　おんぶするな！　全力で走るなぁ！」
　有無を言わさず、解理をおぶってダッシュで試合会場に向かうブラジル。
（せっかくの休みがバカ騒ぎで潰れるの確定だな。……まあ、せっかくの短い夏だ。せいぜい振り回されながら楽しむか！）

　まぁ、いいか。ブラジルの応援でもするか。
　会場に連れていかれながら、苦笑してそう思う解理だった。

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故郷での夏休み

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