故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●無邪気に甘えて

　一家で帰省した澪乃澄佳は、旭川空港で待っていた姉と合流し、一家で北海道上川の祖父母宅へ。
（久しぶりの清（きよ）姉ぇだあ！）
　父の転勤で寝子島に引っ越したが、１０歳年上の姉、清佳は札幌勤務なので北海道に残っていた。
　清佳に会うなり、澄佳は嬉しさのあまり抱きついた。
「高校生なのに甘えんぼうさんね」
「清姉ぇに会いたかったんだもん！」

　祖父母宅では、姉と一緒の部屋で寝ることに。
「昼間はさすがに暑かったけど、夜はやっぱりあずましい（心地良い）ねえ」
　寝室の窓を開け、扇風機を回すだけで寝子島よりも涼しいので思わず口にしてしまった。
（清姉ぇといっぱいお話しをしたいな。まず、何からしようかしらっ！）
　はきはきとした清佳が、澄佳は大好きだ。なので、この日が来るのを指折り数えていた。
　今日は、清姉ぇとくっちゃべると決めていた。
「清姉ぇ、お夜食にブランマンジェさ作ったの。食べて食べてっ。地元の米粉とリンゴジャムで、美味しくできたよう」
　澄佳が祖父母宅に着くなり台所で何かを作っていたのは知っていたが、地元の食材を使った冷菓なのは知らなかった。
「夏にぴったりのお夜食ね。どれ……」
　ブランマンジェをスプーンですくい取り一口。
「おいしい♪」
「本当？」
「本当においしいわよ。お菓子作り、上手になったわね」
　幸せな笑顔で、残りを食べる姉。
「ごちそうさま。おいしいのはいいけど、太っちゃいそうね」
「太っちゃう、なんて今日は言いっこなしっしょ！　まだあるけど、食べる？」
「もちろん、食べるわよ」

　写真を見ながら、寝子島での話をたくさんする。
「このプリクラは、サークルの後輩ちゃんと……。そうだ、護身術サークルってのに入ったんだよう」
「澄佳が護身術？　大人しい澄佳には似合わないんじゃない？」
「似合わない？　酷いよ、もうっ！」
「ごめんごめん。悪かったわ」
「真ん中の子は、しっかり者で頼りになるの。横の子は、なんだって明るく楽しませてくれる子。この子は……」
　楽しそうに寝子高の友人達の話をする無邪気な妹を、清佳は、元気でやっているわねと安心しながら聞いている。

「他にもね、バイトさはじめて、そこで知り合った人たちもいるよ。方言の会、て自分で同好会で知り合った子も」
「アルバイトに同好会設立。寝子島に行って、ずいぶん積極的になったのね」
　もっと聞かせてくれる？　と促すと「うん！」と満面の笑みで応える妹。
「……清姉ぇに言われたとおり踏み出してみたら、２年生から、友達がすごく増えたんだよ。春休みに、もっと思い切っていいて言ってもらえてよかった。ありがとうね」
「ねえねえ、もっといろんなことお話しして？」
「たとえば？」
「たとえば……？」
　むむ……と考え込み、しばらくして清佳のことも気になるが、おしゃれのことをお話ししてとねだる。
「どうして？」
「え？　なしてって？　それは秘密！　ほらほら、早く早くっ！　ほかにもいっぱい聞きたいんだからねっ？」
「好きな男の子でもいるの？」
「それは秘密だって言ったでしょ！　清姉ぇのいじわるぅ！」

　大好きな姉にからかわれたり、おしゃれな話を聞いたり、仕事のことを聞いたり。
　それだけでも、澄佳は十分満足だった。
（大好きだよ、清姉ぇ。今の時間が、ずっと続けばいいのになあ……）
　夜更かしして過ごすと張り切っていたのだが、眠気には勝てなかった。
「幸せそうな寝顔ね。寝子島での話、楽しかったわよ。また聞かせてね」

　風邪をひかないよう、タオルケットを澄佳にかける清佳の表情も幸せそうだった。
「おやすみ、澄佳」