――静謐。
午后の図書館は、死者が眠る神殿のように静謐だ。
逆巻 天野の姿は、<寝子島郷土史>とラベルの貼られた一角にあった。
寝子島について興味があった。この島の本当の姿を知りたい。いまこの島で起こっている様々なことについて、手掛かりが欲しい。だからこそ、民話や寝子島の歴史について書かれた書物からそれらを読み取ることはできないかと、折を見ては学校の図書室やこの図書館を訪れている。
この日彼は、鈴島のこと調べようと考えていた。
鈴島については
以前、学校の図書室で調べたことがある。
大きく分けると、鈴島には二種類の伝承があるようだ。
ひとつは
『鈴島がかつて爆発したらしい』という話、もうひとつは
『鈴島に古代遺跡が眠っているらしい』という話――どちらも真偽定かではないが、興味深い伝承であることは確かだ。
天野はいつものように人差し指で背表紙の題字を追い、……ふいにその手を止めた。
本棚の一角から、多くの本が抜けている。天野の記憶が確かならば、それらの本ではたしか鈴島のことが触れられていたはずだ――そう思った矢先、本を山積みにして調べ物をする
坂内 梨香の姿が目に入った。
「……坂内先輩」
「さ、逆巻君だったかしら。……どうして、隣に座るの」
「先輩が、僕が読みたい本を根こそぎ持っていったから。読み終えた本、読んでもいいかな」
机上の本の山を指差した天野に、梨香は些か迷惑そうに眉を顰めたが断りはしなかった。
ふたりの間にしばし静寂が訪れる。
ページを繰る音。鉛筆の硬い筆記音。
「鈴島について調べてるんでしょ?」
ぽつり、と天野がいった。梨香が驚いた顔で天野を見る。どうしてわかったの、という顔だ。
「図星。先輩って意外とポーカーフェイス苦手でしょ」
「む……。プ、プライベートよ? 思うところあって、個人的に寝子島のことを調べてるの。伝承とか、伝説とか」
「そこまでは聞いてないけど」
「し、仕事だと思われると癪だから。ねえ、鈴島に……
鈴島の森に立ち入ってはいけないという話を、聞いた事ある?」
「鈴島の森に?」
「
なにかが封印されているというようなことは?」
「それは、鈴島の古代遺跡に?」
天野の切り替えしに、梨香の表情は真剣さを増した。
「古代遺跡? そんなものがあるの?」
「白沢先生の時代に噂になったらしいよ。もっとも確かめた生徒はいなかったそうだけれど。それより、そっちの話の方が気になるな。封印って何? 鈴島の森に入ってはいけないというのは?」
「分からないから調べてるんでしょ……」
「情報源は?」
梨香はすこし口ごもったが、天野に誤魔化しは通じなさそうだと判断して静かに答えた。
「うちの古老のひとり」
うちの、というのは、梨香が所属するシーノという組織だ。梨香は言い伝えでしか知らないが、その前身は木天蓼湾を根城とする海賊だったらしい。このあたりの古い話を覚えている者もいたのだ。
「でも、あんまりお爺ちゃんなもので要領を得なくって、詳しくは分からなかったの。絶対一人で行っちゃいけないって繰り返すばかりで。それと、このお守りを身につけていなさい、と……」
梨香は、古老から貰ったというペンダントを光に翳した。直径2センチメートルほどの琥珀だ。その周りに銀の装飾が施され、全体では猫の目のような形になっている。
「
<魔法使いの目>と呼ばれるものだそうよ」
「なんだろうね。興味深いな」
「私もそう思う」
「なら、行ってみればいいじゃない」
梨香はその言葉にはっとして、<魔法使いの目>ごしに天野を見た。
……一瞬、天野の姿が揺らいで見えた気がした。
「なるほどそうね……君のいうとおりだわ」
「……鈴島の森。封印。古代遺跡……」
翌日、梨香は校内の掲示板の片隅に、こんな張り紙を貼った。
――次の日曜日、鈴島探検致します。
鈴島の古代遺跡は本当にあるのか。一緒に確かめにいってくれる人大募集。
興味のある方は3-4坂内まで連絡乞う――
どこか遠くで、烏の鳴く声がした。
こんにちは、あるいは、初めまして。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
今回は鈴島の古代遺跡についての伝承を確かめるお話です。
遺跡は見つかるのでしょうか。そこには何があるのでしょうか。落神伝説となにか関係があるのでしょうか。
次の日曜日、坂内 梨香と一緒に鈴島へ行ってみませんか?
【これまでに調べて情報を得た鈴島の伝承】
『鈴島がかつて爆発したらしい』
『鈴島に古代遺跡が眠っているらしい』
『鈴島の森に立ち入ってはいけない。なにかが封じられているらしい』
『鈴島の森に決してひとりで行ってはいけない』
また、梨香は図書館で遺跡について調べ、次のようなことをメモしました。
『見守り人は第三の目を持ち、第三の目が見守り人を動かす』
その真意は、梨香にもわからないようです。
【探検する場所】
寝子島マップD-13の無人島、鈴島。
左側の一番大きな島の森の中。
なお、鈴島へは星ヶ丘の船着場から海上タクシーで行くことができます。
日曜日は、朝一番に海上タクシーで鈴島に渡り、夕方迎えに来てもらう手筈となっています。
【冒険の同行者】
◆坂内 梨香
寝子島高校3年生にして、伝説の宝の島を探す組織シーノの一員。
今回の冒険は、梨香の個人的な探究心によるもので、シーノの組織的な協力はありません。
ちなみに梨香は、もれいびになりかけています。
【参加について】
とくに制限はありません。ただ、もれいびの方が能力を発揮しやすいかもしれません。
・梨香が同行者を募った校内の張り紙を見た。
・張り紙のことを、口伝えできいた。
・自分はシーノのメンバーで梨香と知り合いだった。
・偶然、鈴島で一緒になった。
などの理由で一緒に探検に行くことになったことにしてください。
【鈴島の森】
森には古代のまじないがかけられていて、惑いやすくなっています。
ろっこんの力などを使って、遺跡を探してください。
ろっこんの力がなくても、丹念に探せばその痕跡を見つけることができます。
※以下の情報は、PL情報となります。キャラクターはその場に行くまで知りません。
※アイテムの持ち込みは、遺跡のことを知らないという前提で、持ってきていて自然なもののみOKとします。
※携帯電話は電波が通じないため使えません。
【鈴島の古代遺跡】
森の探索に成功すると、古代遺跡の入り口を発見することができます。
入ってすぐの場所を調べると、
「4つの石版と、その上にそれぞれ3人の人が乗っているレリーフ」が見つかります。
遺跡の中は迷路のような回廊になっており、4つの関門があります。
【各関門の流れ】
1.関門に挑戦する
2.それぞれの関門を超えると通路の脇に扉があって、あけると小部屋がある。
この小部屋の床に埋め込まれている「石版」が、一番奥の大広間を開ける鍵になっている。
「○の石版」に3人以上の人間が乗ると石版が起動する。
3.石版を起動させると……
・関門の仕掛けが解除され、関門を超えられなかった他のメンバーも通路を通れるようになる。
・ただし小部屋の扉は閉まってしまい、石版に乗った者たちは部屋に閉じ込められる。
小部屋には他に出口はない。扉は不思議な力により、中からも外からも開けることができない。
石版に乗った者たちは次に扉が開くまで遺跡内に戻ることができない。
・扉は、大広間の奥の「解除の石版」(後述)を起動させると、ふたたび開く。
4.残ったメンバーは次の関門へ
※この関門の構造については、第一の関門を抜けるまではわかりません。
第一の関門で得た情報を元に、第二の関門以降は同じだろうと類推して進むことができます。
つまり、探索パーティのメンバーは、だんだん減ってゆくことになります。
この遺跡は「ひとりでは解けない」のです。
一人のPCさんが挑戦できるのは、どれか一つの関門です。
どの関門にもチャレンジしない選択肢もあります。
解けない関門があった場合、今回の探索はそこまでになります。
◆第一の関門・地の試練
通路を歩いていると、突然落とし穴が現れます。
落とし穴の幅は通路の横幅と同じで、脇を通り抜けることはできません。
落とし穴は約10メートルの長さ、落とし穴部分の地面がスイッチになっていて、
そこを踏むと乗っている人共々、床部分が下方に落ちます。
注意深く歩いていれば仕掛けに気づくでしょう。不注意だと落ちるかもしれません。
落とし穴の壁はぬるぬるしていて、登るのは困難です。
(第二の関門)
↑
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| |――――――――――|
| 扉 小部屋 (石版) |
| |__________|
|■■■■■|}
|■■■■■|}落とし穴(約10メートル)
|■■■■■|}
| |
(PC)
落とし穴の先で扉を開くと、小部屋があります。
小部屋の中央の床に埋め込まれている「地の石版」に3人以上の人間が乗ることで
落とし穴部分の床がせり上がってきて他の人たちも通れるようになります。
◆第二の関門・水の試練
| ● |
| ● |
| ● |
| ● |
|水水●水水| ●が通れる場所
(PC)
突然行き止まりとなり、壁から水があふれ出しています。
行き止まりの壁は門のように開きそうです。
滝のようになっている壁に穴がひとつ開いています。
この穴にも穴の半分ほどの高さまでは水が流れていますが、猫ほどの大きさなら通れそうです。
この細い通路の向こうに小部屋があり、
部屋の中央の床に埋め込まれている「水の石版」に3人以上の人間が乗ることで
水の仕掛けを止め、壁を開いて他の人たちも先に進むことができそうです。
石版の仕掛けは第一の関門同様です。
◆第三の関門・風の試練
前方からとても前に進めないような強風が吹いてきます。
| ↓ ↓ |
| 風 風 |
| ↓ ↓ |
| 風 風 |
(PC)
強風を乗り越えてゆくと小部屋があり、
部屋の中央の床に埋め込まれている「風の石版」に3人以上の人間が乗ることで
強風の仕掛けを止めることができます。石版の仕掛けは第一の関門同様です。
◆第四の関門・火の試練
通路の両側にあいた穴から間欠泉のように炎が噴き出してきます。
|・炎炎炎・|
|・炎炎炎・|
|・炎炎炎・|
|・炎炎炎・|
(PC)
炎の道の向こうに小部屋があり、
部屋の中央の床に埋め込まれている「火の石版」に3人以上の人間が乗ることで
炎の仕掛けを止めることができます。石版の仕掛けは第一の関門同様です。
◆大広間
すべての関門を乗り越えて、回廊を抜けると、大きな門があります。
この門が開く条件は、ここまでの4つの関門がすべて解かれていることです。
門をくぐると円形の大広間に辿り着きます。
広間の中央には魔法陣のようなものがあり、そのなかに「ナニカ」があります。
「ナニカ」を守るように、斧を手にした牛人の石像が2体立っています。
頭は牛で身体は人間の男、古代風の衣装を身に纏い、額に赤い宝石が埋め込まれています。
魔法陣の中(空中を含む)に誰かが入ると、石像は侵入者を攻撃します。
魔法陣から出ると、石像は止まります。
石像と戦うこともできますが、危険を伴います。
動いていないとき、石像は不思議な力で守られていて触れることはできません。
大広間の一番奥に小部屋があり、「解除の石版」があります。
解除の石版に3人以上が乗ると、ここまでの関門で閉じたすべての小部屋の扉を開けることができ、
閉じ込められていた人々が解放されます。
解除の石版だけは、一度3人で乗ればOK。そのあと石版を降りても大丈夫です。
また、この小部屋に入るのに、石像を倒す必要はありません。
――それでは皆様のご参加、心よりお待ちしております。