故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●寝子島に帰る日

　寝子島に帰る恵御納夏朝は、恵御納久隆が運転する車に乗り駅に向かっていた。
「夏朝ちゃん、また帰ってきてね」
　助手席に座っている恵御納理沙は寂しかったが、お見送りしないと、と一緒に行くことに。
　家族３人で過ごせるのは駅に着くまでのわずかな時間。

　乗る電車は違うが、父と娘は、それまでの間、駅に一緒にいられる。
「それじゃあ、行ってくる。夏朝、今度帰って来るときは有給取るから」
「うん……楽しみにしてるね」
　久隆が乗った電車が発車した１０数分後、夏朝が乗る電車が来た。
「お母さん……おいしいご飯いつもありがとう。元気でね」
「夏朝ちゃんも元気でね」
「うん……」

　旭川空港のロビーで、澪乃澄佳は姉、清佳との別れを惜しんでいた。
「清姉ぇ、お見送りありがとう。今日はお仕事だったんでしょ？　大丈夫なの？」
「そんなことは気にしないの。向こうに帰っても、元気でいてね」
「うん……」
　別れ際に泣きそうになったが、仕事を遅刻してまで見送ってくれた清佳に笑われちゃうと涙を堪えた。
「また来るからね、清姉ぇ！」

　那覇空港では、県花のデイゴ柄のかりゆしウェアを着た仲村渠鳴が両親と親戚に見送られていた。
　成長する姿を両親や親戚、おばぁに見せることができたことがとても嬉しかった。
　大好きな青い空と海、大切な好きな人との一時。それが、鳴にとっては何よりの思い出だ。
（ぐぶりーさびら……）
　帰り際、心の中でウチナーグチ（沖縄の方言）で皆に「さようなら」を言った。
「また帰ってくるからね」

　音海なぎさの手荷物は、帰省前よりかなり増えた。
　お土産より、橘明里に着せるために持ち帰る洋服を詰め込み、膨らんだバッグが荷物の大半を占めていた。
　洋服入りバッグは宅急便で星ヶ丘寮へ。大量の荷物を持ち歩けないし、他の帰省客の迷惑になる。
「なぎちーせんぱい、楽しかったなの！　また、せんぱいのおうちにつれてってなの！」
「う、うん……」
　またファッションショーするのかと思うと気が重いが、明里が喜ぶならいいか、と思うなぎさだった。
　両親、特に母は明里を手放したくないくらいの可愛がりようだったので、別れる間際まで見送っていた。
　新千歳空港に向かう快速に乗り込むと、北海道に戻ってきた時と同じく、伊賀解理に会った。
「やあ。君たちも今日帰るんだね。また会うなんて偶然だね」
「伊賀さんも今日、寝子島に帰るんだね。よかったら、一緒に座らない？」
「あかりも座るなの！」
「ごめん、あかりん。皆で一緒にね」
　なぎさと明里と向かい合うように座った解理は、お互いの帰省話で盛り上がった。
「これ、食べる？　寝子島でも食べたいから買ってきたんだ。おいしいよ」
　解理は串を紙袋から取り出し、明里に手渡す。
「ありがとうなの」
　さっそく一口。
「おいしいなの！　せんぱいも食べるなの！」
「美唄焼き鳥、久しぶりに食べたよ。ありがとう、伊賀さん」
　久しぶりに食べる美唄市のソウルフードは、とてもおいしかった。

「今日で大阪とお別れやなんて、ごっつ悲しいわぁ」
「お母さん、帰ったら関西弁で喋らないでね？　お父さん驚くから」
「旦那様はこの程度じゃ驚かへんって。ほな、いこかー」
　大阪のノリが抜けていない伊藤恵美を見て、この調子だと寝子島でも当分関西弁かも……頭が痛くなる伊藤佳奈だった。
「佳奈ちゃん、新幹線来たで」
「はいはい……」

「ねーさん、帰りも安全運転なのよー」
「私はいつでも安全運転なのは、ノブも知っているだろう」
　車の中で会話する真辺伸幸と真辺敬子は、行く時と同じようなノリだった。
「それより、寝ぐせはどうにかならんのか」
「直したけど、元に戻ったなのよー」
　起きた時、祖母の家を出る前に直したが、それでも直らないのでそのままにした、というのは内緒。