故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●母と子の一時

（少し仕事も間隔があいちゃったし……一回実家に帰ろうかな？　お母さんにいろいろ報告もしたいし……）
　寝子電に乗って実家へ向かう鹿嶋洋美は、初めて寝子島に行った時、何度も乗り換えを間違えたことを思い出した。
　今では、体がちゃんと覚えているのかスムーズに乗れたが、乗り間違えてしまうかもという不安も。
（今回はちゃんと、普通の時間で着きますように……）
　普通に着くはずだった……のだが、実家に着いた頃にはすっかり日が暮れていた。

「おかしいな？　朝一で出たのにな？」
　マイペースでのんびり屋な性格なこともあり、細かいことは考えず。
　結局、初日は家に帰るだけになってしまった。

　駅の改札口前には、迎えに来てくれた母が待っていた。
「遅かったわね、洋美。あなたのことだから、考えごとしてて乗り過ごしたか、乗り間違えたんでしょ」
「ち、違うの、一駅乗り間違えただけなの。そしたら、反対方向のまったく知らない地名だっただけなの……」
「やっぱり……」
　そうだろうと思った、と呆れる母だった。
「まあ、いいわ。無事に帰ってきたんだから。おかえり」
「ただいま、お母さん」
　乗り間違えの言い訳は聞き流されたような気がしたが、洋美は気にせず。
　ふたり並んで歩きながら、久しぶりの我が家へ。

　実家に着くと、荷物を部屋に置いてから祖父母に帰宅を報告。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ただいま」
　祖父母の仏壇に手を合わせ、私は元気でやっているよと言う。
　母は実家でひとり暮らしを満喫しているようで、休みは、友達としょっちゅう旅行に行ってるのだとか。
「お母さん、本当に満喫してるなぁ……」
「そういう洋美はどうなのよ？」
「私？　私もそれなりに充実してるよ」
　特に決まった職にはついてなく、様々なアルバイトをしながらの生活だが、寝子島ではいろんなことがあり、いろんな人にも知り合えた。
　寝子島に行ったのは母の勧めもあるが、母と、死んだと聞かされている父の思い出の地であるからだ。
「……それに、大事な人とも出会えた」
　その人は、口は素直じゃないが、何だかんだで洋美のことを憎からず思ってくれている。
　今日も、帰省することを伝えたメールの返信がすごく早かった。
「その人ね、何だかずっと、ひとりでうずくまってそうだから何だか放っておけなくて……。だから、ずっと一緒にいられたらな、って思ってるんだけど……」
　その人が側にいると、死んだはずの父が側にいてくれるような気がする。
　洋美が話している『その人』がどんな人かは知らないが、幸せそうな表情で話しているのを見ると、大好きな存在なのかもしれないと思う母。
　話を聞き終えた母は、一瞬、表情が曇った。
　娘が大切に思う存在ができたことを複雑に思っているのだろうか。
「……まぁ、後悔だけは無いよう、自分に素直にやんなさいよ」
　そう言った母は、何だか少し泣きそうな顔をしている気がした。
（お母さん、お父さんのことを思い出したみたいね……）
　悪いことを言ったかもしれない、と反省する洋美だった。
「明日の予定は？」
「明日は友達と会って、明後日は朝一で早く帰ることにするわ」
　実家でゆっくりするのもいいけど、あの人が待っている寝子島に早く帰ろう、という思いも。

　翌日は、母に言ったように地元の友達に会った。
「久しぶり。皆も元気そうね」
　友達とご飯を食べに行ったり、ショッピングをしながら寝子島での生活、友達が何をしているのかという話で盛り上がった。
（寝子島も楽しいけど、地元の友達とこうして過ごすのも楽しいわ。あの人、今頃なにしてるのかな？）
　友達との会話中も、大切な人のことを考えてしまった。