故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●風呂場でのお付き合い

　花札を続けていた蔵人と更と譲だったが、酒を飲んでいた親戚のおじさん達に一緒に飲もう、と誘われた。
「更さんは未成年かな？」
「は、はい……」
　未成年に酒は飲ませるワケにはいかないなあ、と、蔵人は譲を引っ張り、おじさん達の酒盛りに加わる。
「やっぱ、こっちは酒がうまいや。譲、おまえも飲め」
「あんまり飲みすぎるなよ、蔵人兄ちゃん」
　大人達は酒を飲んでどんちゃん騒ぎを始めたが、隣家が離れているので、近所迷惑だと言われたことがない。

「お母さんが、お風呂が湧いたって言ってたよ。更さん、佐奈ちゃんを連れて先にお風呂入っちゃおう。ここのお風呂、おっきいのよ」
　行きましょう、と紫蓮に案内され、祖母宅の風呂に行く更と佐奈。
（女同士のお付き合いも大切よね、うん）
　浴室は、紫蓮が言うように大きかった。
「わ、広いわね。しかも檜風呂だわ」
　温泉の大浴場とはいかないが、檜の浴槽は、３人一緒に入っても若干の余裕がある。洗い場も広い。
「浴槽と壁と床は檜だけど、お湯はボイラーで沸かしているのよ。そういうところだけは現代っぽいんだから」
　昔は薪でお湯を沸かしてたらしいが、親戚が増えてから、ボイラーに切り替えたのだとか。
「誰かと一緒にお風呂入るのって久々だわ。いいお湯……」
　ひとり暮らしが二年目となると、人の温もりはちょっと嬉しい。
（誰かと一緒に入るのって、あんまりないのよね。それにしても紫蓮さん、結構胸おっきい……）
　身体を洗っている紫蓮の胸を見て、つい、自分の胸と見比べる。
「どうしたの？」
「あ、いや、なんでもないわ！」
　紫蓮さん、胸、大きい……とは言えず。恥ずかしいので。
「更さんって、スラッとして綺麗よね。美人さんだし……。実際のところ、譲にいさんとはどうなの？」
「ど、どうって……」
　実は彼女じゃありません、とはさすがに言えず。
「木天蓼大学の同学部で、お付き合いしてる仲だけど……」
「ふぅん」
　本当は彼女じゃないと感づいているのか、紫蓮は、それ以上の追求はしなかった。
「更お姉ちゃん、大学で何のお勉強してるの？」
　佐奈がそう聞くので「芸術のお勉強よ。私は絵で、譲君は写真」と答えた。
「佐奈ちゃん、髪洗ったげるからおいでー」
「はーい！」
　女同士の入浴を楽しんだ更だったが、考え事をしすぎたこともあり、危うくのぼせるところだった。
（私と譲君のことにいろいろ聞かれて大変だったわ……）

　女性陣が風呂から上がったので、ひとりで風呂に入ろうと思った譲だったが蔵人に引きずられ、翔太と３人で入ることに。
「譲、一緒に入ろう」
「いや、俺はひとりでゆっくりと……」
「今更恥ずかしがるなよ、男同士だろ。お前が小さい時は一緒に入っていたじゃないか」
「俺はもう子供じゃない！」
　譲がひとりで入りたい理由は、戦場カメラマンとして何度も修羅場を潜り抜けてきた際に負った傷の跡を見られたくないからだ。
　蔵人はともかく、翔太は、身体の傷に関してあれこれ聞くだろう。
（その場合は、名誉の負傷って言っておくか）

「ふー……やっぱ、でかい風呂はいいよなぁ」
「蔵人おじさん、ジジくさーい」
　身体を洗っている翔太が突っ込むので「私はまだお兄さんだよ」と訂正させる。
「わかったよ。ねえ、譲兄ちゃん、どうして傷だらけなの？」
　予想どおり聞かれたので、正直に話すかどうか迷っていると蔵人が助け舟を。
「翔太、男にはな、知られたくない事がひとつやふたつあるもんだぜ。お前にだってあるだろ？」
「うっ……」
　思い当たることがあるのか、翔太は黙り込んだ。
「だから、詮索しちゃ駄目だぞ。男の約束だ」
「……わかった。譲兄ちゃん、ごめん」
　戦場を転々としていたと正直に話したら、翔太だけでなく、更と祖母まで心配させてしまうことに。
　そんなことだけは、絶対にしたくない譲だった。