故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●花札で勝負！

　譲の気遣い、気さくな蔵人と紫蓮の会話もあり、更は場違いな雰囲気を感じることなく食事を楽しめた。
「ご飯、おいしいわ」
「美人を育てるお米だから、たんと召し上がれ。もっと美人さんになるわよ、彼女さん」
　蔵人の姉にそう言われた更は、顔が少し赤くなった。
　親戚の皆に彼女と認められたことは嬉しいが、複雑な気分だったので素直に喜べず。

「親戚のみんなが優しくてよかったわ。ご飯もおいしかったし」
　更に喜んでもらってよかった、と胸を撫で下ろす譲。
「譲、風呂が湧くまで花札しないか？」
　暇つぶしにいいだろうと、蔵人が花札を持ってきた。
「小さい頃よくやったよねー。いいよ、やろう」
「じゃ、まずは親決めからね」
　自分も花札をすることになるだろうから、更は、ふたりの勝負をじっくり見ることに。

　蔵人と譲は札を引き、それぞれ引いた札を見せ合う。蔵人は松に鶴、譲は牡丹に蝶の札だった。
「私が親だな」
「……だね」
「どういうことなの？」
「花札は、月の早い札をひいたほうが親なんだ。蔵人さんの札は１月で、俺の札は６月の札だから、蔵人さんが親になるんだ。覚えておいてね、更さん。花札をすることになるかもしれないから」
　親の蔵人は自分と相手に４枚ずつ裏向きに配り、親、子、場（親と子の札の間）と配り、手札が８枚、場札に８枚に。
「じゃ、私から」
　蔵人から手札から札を出し、場札に同じ月札があったので、それを取り札とした。
「どうなったら勝ちなの？」
　ルールがわかっていない更の質問に、蔵人が答えた。
「出来役の点数で勝敗が決まるんだ。出来役っていうのはポーカーでいうワンペアとかフルハウスみたいなものだよ。猪鹿蝶って知ってる？　それもなんだよ」
「ああ、それならわかるわ」
　花札のルールを知らなくても、その３枚の札は有名なので知っている人も多いだろう。
「さ、次は譲の番だ。どうする？」
　むむ……と手持ちの札を見て、譲は賭けに出ようかどうか悩んだが、合う札がなかったので捨て札を出した。

　しばらくすると五分五分の勝負になったが、冷静だった譲が「こいこい！　こいこい！」と急に熱くなった。
　こいこいというのは出来役ができ、さらにもっと大きな役が期待できそうになること。
　自分に次の役ができる前に相手に役ができた時は、得点の倍返しとなる危険性があるので期待はずれな場合も。
　得点が高い出来役を期待していた譲だったが、蔵人の番で大きな役ができたので倍返しされてしまった。
「ま、参った……！」
　がっくりとうなだれる譲に「私に勝とうなんて10年早いよ」と笑う蔵人。勝敗は、花札歴の差もあるのかもしれない。
「もう１回勝負！」
　再戦を挑む譲だったが、その後も蔵人が勝ち続けた。

「更さん、私と花札しない？　譲とペアを組んで」
「あ、あの、私、ルール、花札のルールとかわからないです！　さっき教えてもらった出来役もよくわからないですし！」
「大丈夫、おにーさんが優しく教えてあげるから。だいたいのルールがわかればできるから大丈夫だよ」
「わからなかったら、俺と蔵人兄ちゃんが教えてあげるから。だからやろう、ね？」
　ふたりがいろいろ教えてくれるというので「それじゃあ……」と更はやってみることに。

　プレイする前に、基本的なルールと、どのような出来役があり、どれが点が高いのかを教えてもらった。
（出来役って、けっこう多いのね。全部覚えられそうもないわ）
　説明してもらっても良くわからない部分があったが、更は譲に助けてもらいながら蔵人と花札を。
　どういうことか理解できなかったが、更は負けてしまった。
「もう１回よ！　次は負けないんだから！」
　花札が面白くなったのか、つい熱くなり蔵人に勝負を挑む更。
（更さんが本気になってる……）
　やろう、と言い出した蔵人は、これは長時間の勝負になりそうだね、とため息をつく。