故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●距離感がある複雑な家庭

「さて、面倒だがこういう時期には帰らないとな。どーせ暇だしね」
　お盆だから、墓参りにでも行くかと瀧原玲衣は電車で地元に帰ることに。
「ふーむ、公共の交通機関を使うというのも、やはり悪くはナイな。電車は中々楽しい」
　電車からの風景を見ながら、こういうのもいいな、と思う玲衣は男性なのだが、少女らしい外見なので車内で目立っている。
　品行方正な優等生を学校では演じているが、放課後になると女装で街をうろついて楽しんでいるので、それに関してはまったく気にしていない。
（迎えをよこすとか言っていたが、冗談じゃあない）
　そう言った父はともかく、義母は、玲衣のことを毛嫌いしている。
　そのためいろいろと手を回され、帰省の道中、何が起こるかわかったものではない。
　そうなることを予測した父は迎えをよこすと言ったのだが、あえてそれを断り、電車で帰省したのだった。
（大勢の前だと騒ぎは起こせないだろう。下手すると警察沙汰になりかねないし）

　電車を降り、駅を出た玲衣がやって来たのは共同墓地。
　立派な墓で眠っている祖父と、別のところで眠ってる実母の墓参りをするために来た。
　玲衣の母は、己の美しさにばかり関心のある女性だった。
　家族をほったらかして遊んでばかりで、よく「お前は、昔、付き合った資産家の男に似ているところがある」とか言っていたのを今でも覚えている。
　美しさが自慢の母だったが、最期は不自然な轢き逃げに遭い、美貌をズタズタにされた後に自殺という悲惨なものであった。
（自由奔放な人だったけど、美人なのはたしかだったね。最後の最後まで綺麗でいたかっただろうに）
　そう思うと、亡くなった母が哀れに思えた。

「久しぶりだな玲衣、ここに来ていると思ったよ」
　母のことを考えていたので、父に声をかけられたのに気付くのが遅れた。
「来ないとあなたが淋しがるだろ？　父さん」
　母が亡くなり、引き取り手がなかった玲衣と妹の前に現れたのは目の前にいる父だった。
　正妻である義母より、愛人であった母のほうに関心があった、と言っていたことを思い出した。
（美しさだけじゃなく、いろいろと面白い女だったとよく言っていたな）
　目の前にいる父、墓で眠っている母は似た者同士だな、と苦笑した。
「お前も高校３年か。あいつも気が気じゃないようだよ。いつ家をのっとりに来るか、って」
「他人のものには興味ありませんよ。お爺様がくれた家は快適でしたが」
　傲慢ちきな実家よりは、と、心の中で付け加える。

　それからふたりは、墓前で適当な会話を。
　そろそろ切り上げようかと、玲衣は「僕のことはご心配なく」と皮肉をこめ会話を強制終了。
（どーせ、父さんに会いに来ただけだしね。お盆くらいは会わないと）
　さっさと帰ろう、と共同墓地を去る玲衣に、父は「帰りは車に気をつけろよ、あいつがコソコソ何かをやってたからな」と忠告した。
「適当に遊んで帰りますよ、お構いなく」
　何かが起きるのは予測済みなので、その時はうまく対処すればいい。そう思う玲衣だった。
「帰りは、派手な女装をしていこうか」
　見た目は女装が様になるくらい女性らしい、というか少女らしいので、自分だとは気付かれないはず。
　愉快犯のような笑みを浮かべ、振り返らず、まっすぐ駅に向かう。