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故郷での夏休み
●生と死を見つめて
期末試験が終わり、試験休みになったので、森 蓮は家族や友人が眠る地元にある慰霊碑の拝礼へ。
ヒッチハイクと徒歩での移動となるが、のんびり移動するのも良いものですと焦らず、気長に向かう。
車が止まってくれない場合は歩いて。車を止め、途中まで乗せてくれたドライバーの厚意に感謝ながらの移動だった。
「日暮れまでに着くと良いのですが」
地元に続く道を歩きながら額を伝う汗をタオルで拭い、マグボトルに入ったミネラル麦茶を飲んで水分補給。
「熱中症対策もしっかりしないと、途中で倒れてしまいますからね」
麦茶で喉を潤して休憩しながら、少しずつ歩いて行く。
ヒッチハイクをしていると、車を止めてくれたドライバーが、どこに行くのかと訊ねてきた。
「天災に遭った田舎に帰るところです」
偶然にも、ドライバーもそこに向かう最中だったので一緒に行こうと乗せてくれた。
「助かります。では言葉に甘え、ご一緒させていただきます」
地元に着くと、蓮はドライバーに感謝しながらお礼を言い、車を降りると、まっすぐ慰霊碑へと歩き出す。
ドライバーから墓参り用の仏花を分けてもらったが、それだけでは寂しいと慰霊碑のそばに咲いている花を摘み、供える花束を作った。
「簡素な花束になってしまいましたが、これで勘弁してください」
手を合わせ、亡くなった家族と被災者達の冥福を祈る。
目の前の慰霊碑には、天災犠牲者の名が刻まれている。そこには、蓮の家族の名前も。
（あれから、どれくらいの月日が流れたのでしょう。死ぬことで苦しみから解放された皆さん、どうか、安らかにお眠りください）
そう願う蓮の澄んだ瞳は、涙で潤んでいた。
慰霊碑の次に向かった先は、天災から救助された時、同じ病室になった人が入院している病院へ。
その人のお見舞いも、帰省の目的のひとつだ。
「おひさしぶりです、清さん。お元気でしたか」
清さんと呼ばれた老漢は喫煙で肺気腫を患い、経鼻カニュラを付けてベッドで横になっている。
「ああ、今日はだいぶ調子がいいよ」
清さんは長い間ほとんどベッドで横になったままだが、今では、その生活にも慣れてきたようだ。
ここまで徒歩とヒッチハイクで来たと聞いた清さんは、立ち話もなんだからとベッドに腰掛けるよう薦めた。
「失礼します」
ベッドに腰掛けた蓮は、しばらく清さんの話に耳を傾ける。
「昔話でもしようか」
「是非、聞かせてください」
清さんは手先が器用なので、戦争でロシアに行った時、現地の人が捨ててしまう小さなジャガイモも丁寧に皮を剥いて食べたそうだ。
「捨てられてしまうジャガイモも、調理すれば食べられたのですね」
「ああ、そうだ。動物であれ、植物であれ、我々は生きているものを食べ、生命の糧としているんだ」
そのことを忘れてはいけない。そう言って、清さんは話を終えた。
話を聞き終えた蓮は、これまでの人生の物語を患者自身が再構築し、新たな物語にすることで問題の解決を目指していく「ナラティブセラピー」というものを思い出した。
清さんは自身の過去を誰かに語ることで、人生観の転換を図っているのだろう。
どれだけ医療が発展しても、治せる病は一部だ。症状の緩和や延命はできるが、いつかは死ぬ。
蓮と話をした清さんも例外ではない。
清さんが入院している病院は、ターミナルケアも行っている。
治らない病気でも、医師や看護師は、患者が現状を普通と受け入れられるよう心を砕きながら接している。
その様子は、回診に来た医師と看護師を見た蓮にもわかる。
清さんは医師や看護師、社会福祉士、病院の牧師にとても良くしてもらっている。
それで満足していると言っていたが、最期は、慣れ親しんだ自宅で迎ることを望んでいると昔話の後で聞いた。
亡くなった時、家族が「もっと何かすればよかった」と悔いが残らぬよう、今のうちに家族に世話をしてもらうつもりだとも言った。
世話をかける分、葬式は簡素でいい。それも望みだとも。
思ったより早く用を済ませたので、早めに寝子島に帰ることに。
帰り道を歩きながら、天災に遭った後に家族の死を見続けたことを思い出した。
野生動物に食べられる家族を見た蓮は、人に食べられる牛や豚の気持ちを考えるように。
それ以来、一切、肉や魚を口にしなくなった。
『動物であれ、植物であれ、我々は生きているものを食べ、生命の糧としているんだ』
清さんの言葉は、食べなければ生きていけないあの時の野生動物のことを言っているかのように思えた。
人間も、動物も、食べなければ生きてはいけない。
そのことは理解できるが、家族の死に様がトラウマとなったのか肉や魚、貝、卵、乳製品などの動物由来食品が苦手に。
蓮にも、いずれは清さんのように死が訪れる。その時、彼はこれまでの人生を振り返るのだろうか……。
期末試験が終わり、試験休みになったので、森 蓮は家族や友人が眠る地元にある慰霊碑の拝礼へ。
ヒッチハイクと徒歩での移動となるが、のんびり移動するのも良いものですと焦らず、気長に向かう。
車が止まってくれない場合は歩いて。車を止め、途中まで乗せてくれたドライバーの厚意に感謝ながらの移動だった。
「日暮れまでに着くと良いのですが」
地元に続く道を歩きながら額を伝う汗をタオルで拭い、マグボトルに入ったミネラル麦茶を飲んで水分補給。
「熱中症対策もしっかりしないと、途中で倒れてしまいますからね」
麦茶で喉を潤して休憩しながら、少しずつ歩いて行く。
ヒッチハイクをしていると、車を止めてくれたドライバーが、どこに行くのかと訊ねてきた。
「天災に遭った田舎に帰るところです」
偶然にも、ドライバーもそこに向かう最中だったので一緒に行こうと乗せてくれた。
「助かります。では言葉に甘え、ご一緒させていただきます」
地元に着くと、蓮はドライバーに感謝しながらお礼を言い、車を降りると、まっすぐ慰霊碑へと歩き出す。
ドライバーから墓参り用の仏花を分けてもらったが、それだけでは寂しいと慰霊碑のそばに咲いている花を摘み、供える花束を作った。
「簡素な花束になってしまいましたが、これで勘弁してください」
手を合わせ、亡くなった家族と被災者達の冥福を祈る。
目の前の慰霊碑には、天災犠牲者の名が刻まれている。そこには、蓮の家族の名前も。
（あれから、どれくらいの月日が流れたのでしょう。死ぬことで苦しみから解放された皆さん、どうか、安らかにお眠りください）
そう願う蓮の澄んだ瞳は、涙で潤んでいた。
慰霊碑の次に向かった先は、天災から救助された時、同じ病室になった人が入院している病院へ。
その人のお見舞いも、帰省の目的のひとつだ。
「おひさしぶりです、清さん。お元気でしたか」
清さんと呼ばれた老漢は喫煙で肺気腫を患い、経鼻カニュラを付けてベッドで横になっている。
「ああ、今日はだいぶ調子がいいよ」
清さんは長い間ほとんどベッドで横になったままだが、今では、その生活にも慣れてきたようだ。
ここまで徒歩とヒッチハイクで来たと聞いた清さんは、立ち話もなんだからとベッドに腰掛けるよう薦めた。
「失礼します」
ベッドに腰掛けた蓮は、しばらく清さんの話に耳を傾ける。
「昔話でもしようか」
「是非、聞かせてください」
清さんは手先が器用なので、戦争でロシアに行った時、現地の人が捨ててしまう小さなジャガイモも丁寧に皮を剥いて食べたそうだ。
「捨てられてしまうジャガイモも、調理すれば食べられたのですね」
「ああ、そうだ。動物であれ、植物であれ、我々は生きているものを食べ、生命の糧としているんだ」
そのことを忘れてはいけない。そう言って、清さんは話を終えた。
話を聞き終えた蓮は、これまでの人生の物語を患者自身が再構築し、新たな物語にすることで問題の解決を目指していく「ナラティブセラピー」というものを思い出した。
清さんは自身の過去を誰かに語ることで、人生観の転換を図っているのだろう。
どれだけ医療が発展しても、治せる病は一部だ。症状の緩和や延命はできるが、いつかは死ぬ。
蓮と話をした清さんも例外ではない。
清さんが入院している病院は、ターミナルケアも行っている。
治らない病気でも、医師や看護師は、患者が現状を普通と受け入れられるよう心を砕きながら接している。
その様子は、回診に来た医師と看護師を見た蓮にもわかる。
清さんは医師や看護師、社会福祉士、病院の牧師にとても良くしてもらっている。
それで満足していると言っていたが、最期は、慣れ親しんだ自宅で迎ることを望んでいると昔話の後で聞いた。
亡くなった時、家族が「もっと何かすればよかった」と悔いが残らぬよう、今のうちに家族に世話をしてもらうつもりだとも言った。
世話をかける分、葬式は簡素でいい。それも望みだとも。
思ったより早く用を済ませたので、早めに寝子島に帰ることに。
帰り道を歩きながら、天災に遭った後に家族の死を見続けたことを思い出した。
野生動物に食べられる家族を見た蓮は、人に食べられる牛や豚の気持ちを考えるように。
それ以来、一切、肉や魚を口にしなくなった。
『動物であれ、植物であれ、我々は生きているものを食べ、生命の糧としているんだ』
清さんの言葉は、食べなければ生きていけないあの時の野生動物のことを言っているかのように思えた。
人間も、動物も、食べなければ生きてはいけない。
そのことは理解できるが、家族の死に様がトラウマとなったのか肉や魚、貝、卵、乳製品などの動物由来食品が苦手に。
蓮にも、いずれは清さんのように死が訪れる。その時、彼はこれまでの人生を振り返るのだろうか……。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2014年06月24日
- 参加申し込みの期限
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- 2014年07月01日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2014年07月01日 11時00分
