故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●気分が重い帰省

（んー、正直、成績見られたら怒られるから帰りたくないけどなー。でも、墓参りせなな……）
　地元に帰ってきたのはいいが、浅沼柳司は、成績表見せたら、親父怒るよな……と思うと気が重い。
　家の前で入るべきか、引き返すべきか。
　どうすべきか悩んでいると、玄関の開き戸が勢い良く開いた。
「お、親父！？」
　開けたのは、いつまでたっても家に入ろうとしない柳司に気付いていた父だった。
「帰ってきとったんか、柳司。なにボケーっと突っ立っとんねん。はよ入れ」
　父に見つかり、逃げくても逃げられない状況になってしまっては入らざるを得ない。
「い、今、入ろうと思っとったとこや！」
　もうあかん……と思うと、ますます気が重くなる。

　祖父達に一通り挨拶が終わるや否や、父が「学校の成績はどないや？」と、いきなり聞いてきた。
（さっそく成績の話かいな。見せるしかあらへんな……）
　覚悟を決め、恐る恐る成績表を手渡すと予想どおりの展開に。
「何や、この酷い成績！　お前、寝子島の高校で何やっとんねん？　真面目に勉強しとんのかい！」
「しとるがな！　でも……」
「でももヘチマもあらへん、言い訳すな！」
　正座させられ、延々と続いた父の説教は、祖父が「そのへんでええやろ」と止めるまで続いた。
（……やっぱ、成績についてこってり絞られ怒られたな……。手ぇ出てこんかっただけ良かったか……）
　立ち上がって部屋を立ち去りたかったが、足が痺れ、しばらくその場から動けなかった。

　動けるようになったので墓参りにでも……と思ったが、移動疲れで眠たくなってきた。
「行く前に一眠りしよ。ふぁ……」
　家の柱に寄りかかると、じき眠ってしまった。

　目が覚めたのは、日が暮れてきた夕方だった。
「さて、お盆やし、墓参り行くか……」
　少し涼しくなってきたので、実家で飼っている柴犬を連れ、数珠と墓参り道具一式を持ち墓地へ。
　途中、コンビニに寄って仏花とペットボトルの水を買っていく。
（にしても、あっついなー。こら、墓も相当暑くなっとるやろな……）
　日が暮れたとはいえ、気温はまだ高い。
「暑いけど、お前はここで待っとるんや。ここに水、置いとくさかい」
　霊園の前に飼い犬をつなぎ、来る前に立ち寄ったコンビニで購入したアルミ容器に水を入れる。

　墓参り道具を取り出すと、墓石に水をかけ、一通り掃除を。
（墓参りの前に、墓を綺麗にしとかな）
　最近、父達が来ただけあって綺麗になっているが、一応、掃除くらいはしておかないと、と気持ちを込めて掃除を。
「うん、綺麗になった。婆ちゃん、久しぶりやな。なかなか墓参りに来れんでごめんな」
　掃除を済ませると、花を供え、蝋燭と線香に火をつけてから墓前に手を合わせる。
　先祖代々の墓には、柳司の祖母も眠っている。
「俺は、向こうの高校で元気にしとるよ。成績は相変わらず酷いけどな……。それで、ここに来る前に親父に怒られてきたところや」
　苦笑し、帰宅直後の出来事を話す。
「婆ちゃん、親父の枕元立って、親父に成績のことであんまり怒らんよう言ってくれへん？」
　というが、無理なのはわかっている。
　祖母が亡くなったのは柳司が物心つく前なので、正直、祖母のことは覚えていない。
「……兄貴や姉ちゃんは覚えてるみたいやけどな……優しい人やったって言うてるし……。兄貴や姉ちゃんは知ってて、俺だけ知らん」
　何かそれ、すごく悲しいんよな……と呟く柳司の表情に陰りが。
　少し落ち込んでいたが、顔を上げ、元気にしていないと祖母に笑われてしまうと気を取り直す。
「俺、そろそろ行くわ。また来るな、婆ちゃん。天国から見守っとってや。それと……親父の説教、できれば頼んます」
　帰る前に、もう一度、墓前に手を合わせる。

　祖母はどんな人だったのか。物思いに耽りながら、飼い犬とともに散歩しつつ実家に向かう。