故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●古都と寝子島の違いはあれど

（親父もお袋も妹も元気してるかなぁ。前に帰ったのいつだったっけなぁ……）
　お盆に京都に帰省した典町託志は「ひっさびさだなー」と阪急電車を見ながら背伸びする。
　阪急電車に乗り、車窓から見える近代的な建物と昔ながらの建物が入り混じった街並みを眺める。
（地元はいいもんだねぇ。こうしてみると、京都に帰ってきたんだなぁって気がするねぇ）
　慣れ親しんだ懐かしい地元を見ながら、ゆっくりと実家までの道のりを歩く。

「うっす、ただいまぁ！　親父もお袋も元気そうで安心したぜ」

　連絡は入れていたのだが、最近は、なかなか実家に帰ることはできなかった。
「最近、帰って来れなくてゴメンなぁ」
　頭を下げ、両親に謝る。
「仕事がせわしないんなら、帰れんのはしゃあない」
　還暦間近の父は、顔にはたまに連絡くらいせえと書いてある。
　しゃあない、と苦笑する母も、口にはしないが、父と同じ思いだろう。
　その時、妹の愛美が「おかえり」と言いながら顔を出した。
「おう、愛美。今は地元の大学行っているんだったな。充実してるみたいで何よりだ」
　妹も両親同様、元気そうなので安心した。
「はいこれ、お土産の寝子饅頭」
　寝子島土産を手渡した時、父に「お前、京都弁ではおまへん」と突っ込まれた。
「ん？　ああ、向こうにだいぶ馴染んじゃったみたいでな。それですっかり、京都弁が抜けちまって。仕方ないだろ」
　６年も京都を離れ、寝子島で生活しているのだから京都弁が抜けて当然といえる。

　家族と話しているのに、なぜか少し緊張している。その理由は、家を出てカラオケボックスの経営を始めた負い目があるからだろうか。
託志自身も、それなのかどうか自分でも良くわからない。
「そういお前はどうなんだ？」
　父の質問には、京都弁混じりで答えた。
「ああ、俺の方も順調よ？　お店も繁盛して経営は安定しとるし、何より、島の人はノリがええから接客して楽しいんだよな」
　それが、京都と寝子島の違いかねぇ？　と付け加える。
「こないだも、七夕カラオケ大会のイベントもやらせてもろたけど、予想以上の盛況やったしなぁ♪」
　７年前、観光で寝子島行った際に託志は「ここで店やったらいけそう！」と確信した。
　彼の目利きは、あながち間違いではなかった。カラオケボックス『シャンテ』が繁盛しているのが何よりの証拠だ。

　遠く離れた神奈川の島で店を開くという突拍子もないことを言い、両親をビックリさせてしまったことは、今でも覚えている。
「あん時はビックリさせてもうたけど、親父もお袋も、何も反対せんと応援してくれたなぁ……。ホンマに、ホンマにありがとな……！」
　深々と頭を下げ、父と母、妹に感謝する。
「頭を上げんかい」
　父にそう言われたが、託志は、頭を下げたままだった。
（反対せんと、寝子島に行かせてもらったんだ。頭、上がられるワケがないだろう）
　後ろめたさもあり、頭を上げられなかったのだ。
「ええかげんにしい！」
　怒鳴られたので、ようやく頭を上げた。
「いや、その、なんつーか……一度、面と向かって言っときたかったんよ、コレ……。今度、いつ帰れるかわからんし」
　照れながら、頬を指で掻きそう言った。

　面と向かって言った言葉は、帰ったら絶対に言おう！
　その言葉は、託志の決意と感謝の気持ちの表れだった。