故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●メイドにはお休みはありません

　檜扇唱華は、仕えている主人の状況報告兼ね、本土某所の山のほうにある主人の屋敷へ。
　檜扇家は主人の家の従者であり、友人でもある家系だ。
「ただいま帰りました、お父……いえ、執事長」
　主人の家の執事長は唱華の父だが、屋敷内では父と娘ではなく、執事長とメイドという立場である。
　父の日に電話で報告をしたのだが、改めて、寝子島での主人の状況について報告する。
「ご当主様（主人の祖母）、最近心配性なのでしょうか。ご主人様のことを気にかけているご様子です」
　当主を安心させるべく寝子島での主人の暮らしぶり、主人から聞いた学園生活をまとめ、写真を送付したり。
　主人の身の回りの世話だけでなく、当主に主人のことを報告するのもメイドの仕事に含まれている。
　それを依頼したのは執事長の父なので、当然、そのことを知っている。
「写真など送付していますが、ご主人様の寝子島での生活はこの通りでございます。私がついてますのでご心配なく」
　フフ、と笑う唱華を大丈夫か？　と心配する執事長は、父親の顔になっていた。
「逆に心配、ですか？　あらあら。私、仕事と私事はきっちりさせていますわ」
　主人が心配なのだ、と誤魔化す執事長だったが、唱華を心配しているのは隠せない。
「では、私はこれで。メイド長と共に、従者のタマゴ達の教育がありますので」
　帰省したのなら休んだらどうだと言いたい執事長だったが、休め、といってもきかないだろう。

「お久しぶりです、メイド長」
　檜扇家で教育を受けたメイド長は、唱華の先輩にあたる。こうして、並んで働くのは久し振りだ。
「良い彼氏見つかりました？」
　出会いがないからいない、という答えが。
「出会いがない？　まあ、選り取りみどりではないですからね」
　彼氏探しはメイドの仕事ではないので、こればかりは自力でどうにかしてほしい。

　檜扇家は従者の家系なので、他家の従者の育成のビジネスとして手掛けている。
　寝子島にいる主人の家は主従関係であると同時に、ビジネスのスポンサーみたいなことも。
　唱華曰く。「ダメイドがメイドに、というのは、貴族の方々の間ではちょっと有名らしいですよ」……とか。
　メイド長も帰省中は休んだら？　と言ったが「メイドがメイドに世話になるのもどうかとなので」と断った。

　帰省早々、唱華は、屋敷の清掃から様々な業務をこなす従者のタマゴ達の監督を務めることに。
　その前に屋敷の執事やメイドを集合させ、従者の心得を教える。
「皆様に教えることといえば、そうですね。皆で十全を尽くすこと、仲間を助けること、でしょうか」
　間を置き、次の教えを。
「従者たる者、どこにも手は抜かず、されど気持ちは緩やかに。仕事をしている私カッコいい、みたいな感じでいいと思いますよ」
　そして、メイドスマイルで最後に一言。
　

「自分の仕事に自信と誇りを持ちましょう。仕事をきっちりしていれば、ダベるのは問題ありません」
　私語厳禁、と言われるかとビクついていた屋敷の従者達、特に新人は、その一言に安心した。
「私からは以上です。では皆さん、今日も一日、従者としてのお仕事を頑張りましょう」

　心得を教えた後は、タマゴ達の指導をしながら、自分もメイドとしての仕事をこなす。
　手際の良さ、仕事をしながらの迅速かつ丁寧な指導は、ベテランの執事やメイドも感心するほどだった。
　さすが、と言うメイド長に「まだまだです」と苦笑する唱華。
「メイドたるもの、日々是精進ですから。帰省したからといって、ゆっくり休んでいられません」
　屋敷で働く娘を見て、過労で倒れないだろうか……と心配する父、もとい、執事長だった。