故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●仲良し姉弟の帰省

　真辺伸幸は、待ち合わせ場所の寝子高前で待っていた。
　まだかねぇ？　と思っていたら、自動車のクラクションが。
「待ったか？」
「さっき着いたばかりー。よろしくお願いしますーだねぇ」
　姉の真辺敬子の車に乗り込むと、シートベルトを締めて準備万端。
「大丈夫、安全運転だ。心配するな」
　敬子のコロンとした形の軽自動車は、祖母の家に向かい発進する。
「ノブ、その寝ぐせなんとかしろ」
「ねーさんもー、その口調をなんとかしてほしいなのよー」
　伸幸が口ごたえしたことで、ちょっとした格闘に。赤信号で車が止まった時だったので事故の心配はない。
（運転中に格闘すると、事故を起こすからな。そうなったら、ばーちゃんの家に行けないじゃないか）

　祖母の家に着いた敬子は、腕を伸ばしたり、首を回したりして体をほぐし始めた。
（２時間ぐらいかかったから疲れるんだよ……。長時間の運転は楽じゃないよ）
　運転で疲れた姉に対し、伸幸は元気いっぱい。
「おばーちゃん、久しぶりですーなのよー」
　両手を揃え、祖母にペコリと挨拶。
　７０近い祖母だが腰は曲がっておらず、一人暮らしで頑張っているせいか実年齢より若く見える。
「お母さんもただいまーなのよー」
　へにゃり笑いで母にも挨拶。
「ばーちゃん、お母さん、久しぶり。元気そうで何よりだ。あ、お父さんも」
　ひょっこり居間から顔を出し、片手を上げてパタパタしている父に、何か喋れよ……とイラつく敬子。
　無口な父が手を振っていたので、伸幸もつられて手を振る。
　コクリと頷く父は、満足そうな顔をしていた。
「これ、お土産」
　買っておいた手土産のお菓子を手渡した後、敬子はダラダラしたり、家事をしたりと、いつもと変わらないことをしていた。
（お墓の掃除は、ご先祖様をお迎えする時間までに済ませてけばいいだろうから涼しくなってから行こう。しかし、これでは家にいる時と変わらないな）
　母と姉が家事をしている間、伸幸は土産のお菓子を食べながら祖母と父に近況報告を。
　祖母宅では基本正座なので、話をしている間は、足のしびれを堪える時間でもあった。
（文おばーちゃんは昔からしているから慣れちゃってるのよー。正座していても、足しびれないしねぇ）
　のんびりタイムが拷問に思えて仕方がない伸幸は、我慢できず、足を崩した。
「こらノブ、足を崩すな。ばーちゃんの家では正座が基本だ」
　夕飯は何がいい？　と訊ねに来た敬子に頭をチョップされ、いいじゃないーと涙目で口ごたえする伸幸。
「痺れは我慢できないのよー」
「男だったら根性でするべし！」
　そんな姉弟のやり取りを見て、祖母はふたりが子供の頃と変わっていないことを喜んだ。

　夕方に墓掃除を済ませた真辺家一行は、夜にご先祖様を迎えに提灯をお墓まで持って行くことに。
　皆揃って、浴衣に着替えてご先祖様をお迎えするのがお盆の風習になっている。
　祖母に着付けしてもらった敬子と伸幸の浴衣は、祖母が作ってくれたものだ。