故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●ヘン　ガップ　ライ

　ハノイ旧市街での観光をおもいっきり楽しんだふたりがシダ美穂戸の実家に着いた頃には、すっかり日が暮れくれていた。
「わわ、すっごい家……お、お邪魔しまーすっ」
　緑野毬藻仔は、大きなフランス風建築の大きいお屋敷に圧倒されながら、美穂戸家にお邪魔する。
　フランス風建築なのは、植民地統治時代のフランス文化の影響を受けているためだ。

　ディナーは、シダの父が毬藻仔にベトナムに来てくれたことへの感謝。
　いつも『ベトナム雑貨店　チュックマイマン』を手伝ってくれてありがとう、といった気持ちを込め、ベトナム料理を振る舞ってくれた。
　食べ歩きの庶民的な味と高級料理、どちらもベトナムの味だから参考にしてほしいとも言った。
「す、すっごい……」
　ディナーは、魚介がふんだんに入った春巻き。屋台で食べたものが庶民的なら、こちらは高級料理だ。
　その他には、焼いた大型海老、蒸し海老のココナッツ添えといったものが。
　用意してくれたシダの両親に感謝してから、皆揃って、良く味わって食べる。
「おいしいね、シダさん。シダさんのお父さん、ありがとうございます」
「ンゴーン。カムオン　ボー　メー（母）」
　ベトナム料理は中華料理がベースなので、スパイスや唐辛子などの刺激が少なく、マイルドで食べやすい。
　屋台で食べ歩いたベトナム料理と一味違う味に、大満足の毬藻仔だった。

「ここ昔　シダ使ってた部屋。今日　一緒　ここで寝よう」
　毬藻仔がシダと寝るのは、シダが寝子島に行くまで使っていた自室。
「ディナー、美味しかったねぇ。明日は何をしようか？」
「あした　バッチャン。明後日　ハロン湾。次の日　どこいこう？」
「そういえば、明日、バッチャンで焼き物仕入れるって言ってたねぇ」
　バッチャン村は陶磁器の生産地として知られ、日本とのかかわりは古く、１６世紀にさかのぼる。
「いい焼き物が仕入れられるといいね、シダさん」
「あとは　ニャチャンビーチ。　ミトー」
「ニャチャンはリゾート地だったよね。チャンフー通りでおいしいもの食べに行こうね♪」
「水上人形劇も　見なきゃだな♪　シダ　すきなとこ　ぜーんぶ　もこもこ　連れてきたいな」
　ぎゅーと抱きしめ、毬藻仔と故郷でたくさん思い出を作りたいと思うシダだった。

「バッチャンの次　ここ」
「いいねぇ。ここも行こうよ」
　その後、ふたりは、夜更かしをして明日の観光プランを練っていた。

　翌日。バッチャン村で焼き物を仕入れに。
「素朴な味わいだねぇ」
「中国の焼き物　その影響らしい」
　シダが言うように、バッチャン村の陶器は、明朝時代の中国陶器の影響を受けている。
　ふたりでいくつか選んで陶器を買うと、寝子島にあるベトナム雑貨店に送るよう店員に頼んだ。
　仕入れるかどうかは、雑貨店の店長が決めるだろう。
「いいものがあって良かったね、シダさん」
「次　あの店に行こう」
　ここでは、毬藻仔が実家に送る陶器を買った。

　翌日はニャタンビーチで泳ぎ、チャンフー通りを見て回り、おいしいものをたくさん食べた。
　世界遺産のハロン湾では鍾乳洞観光、ミトーではメコン川クルーズの観光を。
　日本に帰る前日は、ホーチミン市で水上人形劇鑑賞を。
　ため池などの濁った水の上に置かれ、水面が地面に見立てられた舞台で、人形操者は腰まで水に浸かり、歌と楽器の演奏に合わせて人形を動かす。
　日本の人形浄瑠璃を水中でしているようなものだ。
「水に浸かって人形を動かしているんだね、すごーい！」
　初めて見る水上人形劇を見て感動したり、楽しんだりの毬藻仔を見て、連れてきてよかった、と喜ぶシダ。

　楽しかったベトナム帰省はあっという間だった。名残惜しいが、ふたりは帰国する。
「ボー　メー　カムオン。また来る」
　両親に感謝し、搭乗口に向かうシダは、少し寂しそうに見えた。
　勉強したベトナム語で「またね」と呟いた毬藻仔も、少し寂しそうだった。

　そんなふたりだったが、飛行機の中では楽しかった思い出話で盛り上がっていた。