故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●飛行機で各々の地元へ

　予定が狂ったが、無事、福岡行きの飛行機に搭乗できた志波武道と志波拓郎。
　武道は水泳部、拓郎は陸上部で身体を鍛えているが、休み無しの全力ダッシュだったのでゼーハー息切れ状態だった。
「な、何故……最初から……こんなに、焦ることに……！」
　陸上部で走り込んでいるが、辿り着くまでは地獄の特訓に近いと思う拓郎は、まだ肩で息をしている。
「……席は……ここか……」
　航空券を確認して、自分の席を見つけるなり拓郎はドカッと座り込んだ。隣の席には拓郎同様、息切れ状態の武道が座る。
「……何で……兄貴が、隣、なんだ……？」
「まー、いいじゃない。滑り込みセーフだったけど、こうして無事、搭乗できたんだからさー☆」
　志波兄弟が隣同士の席なのは、航空券予約の際、武道が勝手に指定したからだ。
　搭乗手続き時間ギリギリだったので、座席変更ができず。
　余裕があり、航空券を確認することができたら拓郎は変更したのだろうか。
　何かと気苦労が絶えない弟心、元気いっぱいな兄知らず。
　他の乗客に迷惑をかけたが、飛行機は離陸し、羽田から福岡に向け飛び立つ。

「……仕方、ない、イヤホン付けて寝るか……」
　ＣＡが配ったサービスの珈琲を飲み終えた拓郎は、福岡に着くまで一眠りしようとしたが武道に邪魔された。
「俺、毎回このテレビ見るのが楽しみ―！　ほら、たー坊！　この回オモシロイヨ！　みよみよ！」
「……邪魔……する、な……」
　ウザそうな表情で拓郎が見たのは、武道の前の座席の後ろにあるテレビ。
　映っているのは、失敗ばかりの悪の秘密結社と、彼らの野望を阻むヒーローのやり取りを描いた脱力系コメディのフラッシュアニメだった。
「……兄貴……これ、好き、だな……」
　一緒にみよ、と突く武道。
「って、つつくな！　俺は寝るんだ！　話しかけるな馬鹿兄貴！！」
「つれないねぇ、たー坊。珈琲についてきたチョコあげるから！　一緒にみよ！　ね☆」
「そんなものいらん！　俺は寝るっ！」
　不貞腐れた拓郎は、そっぽを向くと目を閉じた。
　しばらくするとダッシュした疲れが出たのか、眠ってしまった。
「ウワァン！　すぐ寝たぁ！　つまんなーい！」
　仕方ないので、拗ねた武道は一人寂しくテレビを見ることに。
　最初のうちは面白かったが、フラッシュアニメが終わると急に退屈になってきた。
（しっかし……毎回思うけど、空港から中心街の天神へ地下鉄１０分っていうのは、かなり便利だよなぁ……。そのせいで、余計に羽田から寝子島が遠く感じるけど）
　苦笑しながら、武道は、飛行機から見える景色を見ながら他の皆はどこに帰省しているのだろうかと思った。

　沖縄県出身の仲村渠鳴は、飛行機で那覇市の実家へ。
（おばぁ、元気にしてるかなぁ）
　久米島に住んでいる祖母に会いに行くので、どうしているのだろうかと気になる。

　北の大地へ帰省するのは、音海なぎさと橘明里、伊賀解理、澪乃澄佳の４人。
　なぎさの実家は、北海道の美唄市にある。実家に向かうため札幌行きの飛行機に乗っている。
　そこから少し離れた席には、偶然にも、なぎさと同じ美唄市出身の解理がいた。
　澄佳は旭川空港行きなので、なぎさ達とは別の飛行機に搭乗している。

　海を越え、海外に帰省する者も。
　ベトナム出身のシダ美穂戸は、ベトナム旅行のお誘いを受けた親友の緑野毬藻仔と実家へ。
（シダさんと思い出、たくさん作りたいなぁ）
　ベトナムで楽しく過ごしたい毬藻仔は、シダに地元がどんなところか訊ねる。
「地元　いいところ。食べ物　おいしい。もこもこ　たのしめる」
「そうなんだぁ。たくさん観光しようね」

　フランス出身のエヴァ・ブランシェは、帰省したらどうなることやらと思うとため息が出た。
（ファンキーな両親だから、帰省するなり、何をしでかすか……）

　ドイツ出身のシスター、ゼシカ・ホーエンハイムは、旅の安全を祈りながら飛行機に乗っている。
（神父様とシスターはお元気でしょうか。子供達にも早く会いたいですわ。ああ、待ち遠しい……）

　飛び立つ飛行機の中で、地元に着くまでの間、それぞれの過ごし方で時間を潰していた。

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