故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●秋田へ行こう

「今年は姉貴一家と譲も帰省するっていうし、賑やかになりそうだな」
　南戸河蔵人は、姪の詠坂紫蓮も連れて行けと姉に言われたが、どうしてなのかわからない。
「あ、おじさん、元気してた？　久しぶりー」
「おっす、紫蓮。久しぶりだな」
　去年は受験で行けなかったので、紫蓮は、秋田の曾祖母の家に行くのは２年ぶりになる。
「そういや、紫蓮はもう高校生だっけ。どこの高校に入学したんだ？」
「高校？　寝子島高校だけど」
「え？　寝子高！？　そんな話、聞いてないぞ！」
　驚いた蔵人は、姉が紫蓮と寝子島から一緒に来いということをようやく理解した。
（隠してやがったな、姉貴……自分の娘が寝子島にいるんだったら、俺に教えてくれてもいいものを……）

　蔵人と紫蓮は秋田行きの新幹線に乗り込むと、指定席を探し始めた。
「私達の席はここだな」
　蔵人が何気なく後ろの席を見ると、そこに従兄弟の諸星譲と伊陸更が座っていた。
「譲も来たか。席が近いのは偶然……って、何！？　彼女連れ！？　マジか……」
　この間、譲と飲みに行った時は何も言ってなかったのでこれにはビックリな蔵人。
「譲にいさんが女連れ！？　まさか帰省に彼女を連れてくるなんて、ひょっとして……」
　目をくりっとさせ、更を見ながら付き合ってるの？　と言いかけた紫蓮は少し混乱気味。
　どうしてふたりが驚いたり混乱したりしているのかわからない更は、譲を問い詰めた。
「これは一体、どういうことよ！」
　迫る更に観念した譲は「ごめん！　バイトっていうのは嘘なんだ！」と両手を合わせながら謝った。
「ばあちゃんに今度会う時、彼女連れてくるって約束しちゃったからさ……だから、彼女のフリしてほしいんだ。なんでもするから許して！」
　平謝りしながら本当のことを話す譲に呆れた更だったが、仕方ないわね、と彼女のフリをすることに。

「事情があるなら、それを先に言いなさいよね。それと、何でもするって約束、忘れないでね？」
「ありがとう、更さん！」
　助かった……と胸をなでおろす譲を見て、更は自分に彼女役が務まるかしら？　と不安に。
（やだ、ドキドキする……）

　譲がおばあちゃん子なのを知っている蔵人は、そういうことか、とひとりで納得。
「更さんね。どーも、譲の従兄弟の南戸河蔵人です。美人さんなんで、おにーさんびっくりよ。これから数日よろしくね」
「……なんだかよくわからないけれど、こんなのに付き合わされるなんて大変ね。私、譲にいさんのいとこめいで、蔵人さんの姪の詠坂紫蓮っていいます。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
　譲の親戚と一緒に行くことになったので、緊張して挨拶が敬語になった更だった。

　東京から秋田県大仙市大曲までの旅は、こうして始まった。
　鞄からトランプを取り出した蔵人は、皆でやろうと言う。
　本当は花札をしたいところだが、更が知らないだろうと思いやめた。
「更さん、花札知ってる？」
「花札？　よく分かんない」
「そうか。向こうに行ったら、ちょっとやってみるかい？　私が教えてあげるよ」
　その話を聞いた譲は「小さい頃、蔵人兄ちゃんとよくやったよねー」と昔を思い出していた。
「紫蓮さんも花札できるの？」
　新幹線といったら駅弁と、牛タン弁当を食べている紫蓮に訊ねる更。
「ん、花札？　私はできるよー？　更さんは知らないの？」
「札の絵柄ならだいたいわかるけど、遊び方とかは……」
「それじゃあ、叔父さんに教えてもらったら？　私も教えてもらったから、できるようになったんだよ」
　
　秋田に着いたら、さっそく花札大会でもするのかしら？　思う更だった。

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