故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●実感した自分の成長ぶり

　桜花寮で同室の七音侑と夢宮瑠奈は、それぞれの地元に帰る駅のホームで電車が来るのを待っていた。
「あっのひーとのー、パパに会うためにーっ♪」
「侑ちゃんったら。自分のパパでしょ？」
　苦笑しつつ突っ込む瑠奈に「えへへ……」と誤魔化し笑いする侑の手には、母から頼まれたお土産が入っている紙バッグが。
「七音、待たせたな。夢宮ちゃんも、今日、帰省するのか？」
　ふたりを見かけた桐野正也は、侑と一緒に地元に帰る。
　正也の父と侑の父が同級生で、近所に住んでいるので、侑とは、家族ぐるみのお付き合いがある仲だ。
「うに？　ウチが乗る電車が来たにー。瑠奈ちゃんは、この後に来る電車だったよね？」
「うん。家での夏休み、楽しんでね。きりのん先輩も」
「ああ、夢宮もな」

　地元の駅に着くまでの間、侑は駅弁を食べながら車窓から見える景色を見たり、正也とおしゃべりしたり。
（帰省はいいんだけどさ……）
　楽しんでいる侑に対し、正也は憂鬱な気分だった。
「うにっ、先輩、疲れたのかにー？」
「いや、別に【何で急に話しかけんだよ……】」
　そう言うと、車窓から見える景色を見て黙り込む正也だった。
「変なの」
　向かい合って座っている侑が男の子と楽しそうに街を歩いているのを見てから、兄として、少し複雑な気分になっているとは言えない。
　そのことを言わず、話しかけられたらそれに応じるといった感じで電車に乗っていた。

　電車を降り、駅を出るとふたりは途中まで一緒に歩く。侑は、家の近くで正也と別れた。
「たーだいまー！」
　家に着き、玄関を開けた途端、住宅デザイナーの父がおかえりのハグを。
「パパ、くるしーよー！」
　ごめん、と謝り侑から離れる父。
（最近、溺愛がちょっと嫌、っていうのは内緒にー。言ったら、パパが傷ついちゃうにー）

「ママもただいま♪　これ、お土産」
　お土産を受け取った母は、ありがとう、とニッコリ。
　家でいる間は、父と母に学校で撮った写真いっぱい見せ、学校や寝子島での出来事を話した。
　笑顔で話を聞き、他にはどんなことがあったのか聞いてくる両親は、娘が楽しく寝子島で暮らしていることに安心している。
（ウチの話を聞いて、喜んでくれるパパ、ママといるのだーいすき！　やっぱり、家が一番！）
　買い物に行っていた母から知り合いのお兄さんと会ったと聞いた侑は、プールに誘ってみようと決めた。
「正也くん達と良く行っていたあのプールね、最近工事して新しくなったわよ。綺麗になったプールで泳いでらっしゃい」
「うん、そうする！」
　昔みたいに、知り合いのお兄さんときりのん先輩と遊べるといいな、と楽しみな侑。
（ちょっとパパがうざくなってきたに……。もー！　ウチもう高校生なの！）
　最近、父の溺愛がちょっと鬱陶しくなってきた。
　子供の頃はともかく、高校生になってもハグされるのは少し抵抗感がある。

　昼食を済ませて一休みした後は、ひとりで近所を散歩。
　昔、良く遊んでいた公園のジャングルジムが変わっていたので、ちょっと登ってみることに。
「あつっ！」
　太陽の熱で熱くなっていたが、何度も掴むと慣れてきた。
「うにっ、以外と枠が小さいにー……いだっ！！　うー……頭ぶつけた……」
　枠が小さいと感じたのは、侑が成長したからだ。
「てっぺんまで登ったけど、あまり高くないにー……。昔はすごく高かったのに」
　ジャングルジムのてっぺんから公園全体を見渡しながら、子供の頃、正也と砂場で遊んだりしたことを思い出していた。

「昔は、先輩といっぱいいろんなことしたなー……」
　電車に乗っていた正也の様子がいつもと違う気がしたので、何かあったのだろうかと気にかかる。
（ウチ、いつもと変わらないのに、なんで先輩はウチが変わったような目で見てたんだろ？）
　本人に確かめるのが手っ取り早いので、正也が帰省している彼の祖父母宅へ。
「じいじとばあばの家に行ってみるにー」
　いつもと違う理由を聞いてみようと思ったが……暑くなってきたので、一旦、家に帰って休憩することに。
「熱中症になったら大変にー。おうちでちょっと休憩しよう」