故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●会えなくても通じ合う心

　夢宮瑠奈の実家は、実家は都内某所の広い館。
　母が元人気グループの主要メンバーなので、迂闊に自宅を知られると大変なので住所は非公開。
　七音侑が乗った電車を見送った後、瑠奈も、その数分後に来た電車に乗り、家に帰った。
（誰もいない家でも、たまには掃除に帰らないと）
　自宅の清掃が、帰省の目的だ。

　自宅には電子ロックが施されているが、瑠奈は操作できるので、開錠して家の中へ。
（案の定ね……）
　家の中は、誰かが帰って来ている形跡は無い。
（一応、パパが帰れる家にしておかないとね。ずっと無人で、あまり使われない実家だけれど）
　時々帰って掃除していると言っていたが、それは多分、瑠奈を安心させるための嘘だろう。
（パパ、あたしを安心させて寝子島にいさせるために嘘ついてること、ちゃんとわかっているんだからね）
　だからこうして、時々、帰ってきて掃除しておこうと最初から決めていた。
　本当のことをいうと、帰省している間は父と過ごしたいが、仕事なので仕方がない。

「さあ、お掃除、お掃除！」
　帰省の間は数日かけ、自宅をピカピカにすることに。
　まずは朝の涼しい時間帯に窓を開け、家中の空気を入れ替える。
「うわ……」
　父の部屋は、長いこと窓を閉めっぱなしということもあり熱気がこもっていた。
　家中の窓を開けると、心地良い風が家の仲に入って来た。
「気持ちいい……」
　風で少し涼んでから、日向に寝具を干す。これは意外と重労働だったりする。
「お布団はフカフカのほうがいいわよね。電気や水道なんかはどうかしら？」
　確認したところ、電気も水道も止まっていなかったので維持されているようだ。
　掃除機をかけたり、シーツやカバーを洗濯したりと、父の部屋と寝室を徹底的に綺麗に。
（いつ帰るかなんて決めてないから、時間をかけて家をピカピカにしよう。パパ、驚くかな？）
　１日ですべての部屋を綺麗にするのは大仕事なので、少しずつやっていくことにした。

　汗をかいたので、シャワーを浴びて休憩し、気分転換に中学校の時の友達に電話を。
（彼女たち、あたしがアイドル始めるの知らないだろうな。まだ寝子島限定だもの。伝えたらびっくりするかな？）
　いないかな？　と思ったが、最初にかけた友達に繋がった。
　寝子島でアイドルを始めたことを話すと「それってご当地アイドルってやつ？」と聞かれたので「そうだよ」と笑顔で答えた。
　友達は、瑠奈なら寝子島以外のアイドルになれるよと応援してくれた。
「ありがとう。あたし、頑張る！」

　実家にいる間は、自宅をまんべんなく掃除したり、地元の友達と連絡を取り合ったり、遊んだりと楽しく過ごした。
　家はピカピカになるのは気持ちいいし、友達とおしゃべりしたり、遊んだりしたのは楽しかった。
（綺麗なおうちに友達もいいけ……あたしは……）
　夜になるとひとりになるので、我慢していた寂しさがこみ上げてきた。
「パパ、帰ってこないかな。この家、そんなに見るの辛いのかな……」
　帰省している間、一目見るだけでもいいから会いたい。
　部屋のベッドに入りながら、父に会えない寂しさを紛らわすためぬいぐるみを抱きながら眠る。

　寝子島に帰る間際、寮で撮った写真を父が見つけそうなところに貼ろうとした。

「これ……」
　その時、瑠奈宛ての手紙がリビングのテーブルに置いてあることに気付く。
　今日の日付入りなので、明け方に帰ってきたようだ。

『忙しくて、会えなくて、帰れなくて、すまん。また出かける。お前もお前の道を頑張れ』

　そう書かれた父の手紙の横には、小さなヘアゴムが一緒に置かれていた。
（パパ……）
　父の気遣いが嬉しいのか、会えない寂しさが悲しいのか。瑠奈はちょっと泣いてしまった。
「パパ、あたしも頑張る！　だから、パパもお仕事頑張って！」