故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●変わらない過ごし方と両親

　エヴァ・ブランシェの実家はフランス郊外だが、そこそこ裕福な住宅街で、治安も悪くは無いほうだ。
「……フランスに帰ってきても、日本とやることが変わらないわね、あたし」
　帰省したのはいいが、することが何もない。
　退屈なので『牽牛織女』と書かれた扇子をパタパタ仰ぎながら棒アイスを咥え、ソファで横になっている。
　昼下がりの過ごし方は寝子島と変わらないので「あたし、何しに実家に帰ってきたのかしら？」と思った。
　フランスの暑さは日本と変わらないので、昼間の暑さは寝子島にいるのとまったく同じだ。
（実家と言っても、ほとんど思い出に残ってないくらい小さな時に住んでた場所だし、あんまり帰ってきたって感覚が無いのよねー）

　エヴァの両親はフリーの通訳をしている自称冒険家なので、家にはほとんどいない。
　どのような仕事をしているのか、というのもわからない。
　小さい頃から破天荒な両親の行動に付き合わされ、世界中のいろんな場所に連れて行かれ、いろいろと無茶なことをさせられた。
　両親に関しては、そのようなことしか覚えていない。職業に関しては、冒険家でいいか、という感覚だ。
（正直、子供を玩具か何かと勘違いしてるんじゃないかしら？）
　そう思うこともあるが、両親は毎年、家族団欒ができる時間を作ってくれる。
（こうやって家族団欒ができる時間を作ってくれるあたり、一応、あたしを愛してくれてるのかしらね……）

　子供の頃のことを思い出しながらダラダラしていると、玄関のほうが何やら騒がしい。
（父さんと母さん、買い出しから帰ってきたようね）
　身体を起こし、玄関のほうを振り向くと親が買い出しから帰ってきたところだった。
「ただいまー！」
　帰宅するなり、猛然とエヴァに突っ込んできたのは不審者……もとい、父。
　クイッと身体を捻って抱きついてこようとする父をかわし、畳んだ扇子で顔面に一発お見舞い。

「酷いじゃないか、マイスイートハニー！」
　顔に扇子の痕がくっきりついているが、お構いなしにもう一度抱きつこうとする父。
「マイスイートハニーはないわよ、ファンキー親父！」
「いいじゃないか、マイスイートハニー」
「過度なスキンシップはやめろって言ってるでしょ！　足にすがりつくな！　母さんも何か言って……」
　にこやかに様子を見ている母に助けを求めるが、父同様、抱きつこうとするので扇子で頭をどつく。
「って、あんたもかい！」
　スパーン！　というハリセンのような音が、ブランジェ家の玄関に響いた。
「いったーい！　家族水入らずで過ごすんだから、これくらいいいでしょ？　親子のスキンシップは必要よ？」
「過剰過ぎるわ！　父さんも母さんもいい加減にしなさいよ！」
　父は顔、母は頭をさすりながら、買い出した食材をキッチンに運ぶ。
（まったく、先が思いやられるわ……）

　夕食は、エヴァの母が腕によりをかけて作った手料理だ。
（こうして皆で夕食を食べるのって、前はいつだったかしら？）
　懐かしい母の料理を味わいながら、家族団欒の時間を楽しむが……。
「はい、あーんして♪」
　父が、エヴァに料理を食べさせようとしている。
「子供じゃないんだから、ひとりで食べられるわよ」
「いいじゃないか。遠慮しないで、マイスイートハニー♪」
「私にもあーんさせて。はい、どうぞ♪」
　いつまで、あたしを子供扱いしてるのよ……と思うとウザくなってきた。
「いい加減に子離れしろー！　ウザイもんはウザイ！　くっつくなー！」
　いいじゃなーい、と懲りずにエヴァに食べさせようとする両親だった。

　エヴァの気苦労は、彼女が寝室に行くまで絶えなかった。
（ベタつかれるのは嫌じゃないけど、露骨にされるのはねー。次に帰省した時はエスカレートしそうだわ……）