故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●離れていても変わらない我が家

「たまには元気な姿を見せてあげないとねー」
　母が苦手なのでちょっと帰りにくいが、たまには、顔を出さないと心配をかけてしまう。
　山間のちょっとした街だが、千鳥雅人の実家がある神社は、山寄りのほうなので交通が不便なところだ。
　駅前から乗ってきたタクシーを降り、暑い中、汗だくになりながら石段を登る。
「暑いねー」
　流れ落ちる汗をタオルで拭いながら石段を登り終えると、鳥居が見えてきた。
「やっとで着いたー」
　鳥居をくぐって境内に行くと、参拝に来てくれている知り合いのおじいちゃん、おばあちゃんに会った。
「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちはー」
　おじいちゃん、おばあちゃんに元気良く挨拶を。
「おかえり」
「雅人ちゃん、帰ってきたんだねぇ」
　おじいちゃん、おばあちゃんは、雅人が帰ってきたことを喜んだ。
「しばらくここにいるからねー」
　手を振ってふたりと別れた後、社務所兼自宅の玄関を開ける。
「ただいまー」

　玄関を開けて挨拶するが、誰も出てこない。
「留守……なのかなー？」
「おかえりなさい、雅人くん」
「あ、ただいまー」
　玄関に来たのは、休憩中の住み込みの巫女さん。
「父さんはお勤め中だよね。母さんはどこー？」
「奥さんは、晩ご飯の買い出しに行っていますよ」
「ふたりともいないんだー。部屋に荷物、置いてくるねー」
　部屋に荷物を置くと、休憩時間中の巫女さんに話し相手になってもらうことに。
　冷たいお茶を飲みながら、学校で出会った友達のこと、寝子島で今まで起こった不思議な事件とか、雅人は、いろいろな話をした。
「すごく楽しそうですね」
　話を頷きながら聞いている巫女さんは、向こうで楽しんでいる様子がわかった。
　いろいろ話をしていたら休憩時間が終わったので、巫女さんは境内の方へ。
　ひとりで家にいても暇なので、巫女さんのお手伝いすることに。
「帰ってきたばかりなんですから、雅人くんはゆっくりしてください」
「久しぶりの神社だから、お手伝いするよー。着替えてくるねー」

　神社の手伝いをしているうちに時間はあっという間に過ぎ、家族そろっての晩ご飯の時間に。
「焼肉だ！　やったー！」
　雅人が帰って来るので、母は奮発して、焼肉をたくさん買い込んだ。
　楽しい食事の時間にも、家に住んでいた頃と同じように小言を言う母に、はじまったねーと苦笑する雅人。
「小言はやめて欲しいなぁ、母さん。顔にシワができて老けちゃうよ？」
　ほわほわでおっとりした父は母を宥めようとするが、うっかり地雷を踏み、かえって母を怒らせてしまった。　
　巫女さんはその様子を見て「またですか」という顔で苦笑しながら肉を食べている。
（……変わらないなぁ）
　自分がいない間に少しは変わっているかと思った両親だったが、実家を離れても、まったく変わっていなかった。
　こうしていると、懐かしい我が家に帰ってきたんだなーっという実感がわく。
（学校の皆とワイワイ楽しくやってるのもいいけど、たまには、こういうのもいいよね！）
　寝子高の皆と過ごすのも楽しいけど、慣れ親しんだ実家で家族と過ごすのもいい。
　焼けたばかりの肉を取ろうとした雅人に、母は「野菜もちゃんと食べなさいよ」と言う。
「わかったよー。小言は、もうやめてって言ったでしょー」

　千鳥家の食卓は、晩ご飯が終わるまで賑やかで、楽しいものだった。