夏　～剣道部のとある一幕～｜リアクション

夏　～剣道部のとある一幕～

【本日の稽古が終わって……】

　じんわりと、体中に張り付くような湿気が汗と混じり合って、不思議な感覚に全員が包まれていた。
　――夏。
　日が暮始めており、すでに時刻は夕方を回っている。
　蝉の鳴き声は未だに止まず。
　剣道場にまとわりつくように降り注いでいる……。
　そんな蝉の声をかき分けるようにして、剣道場に入ってくる生徒が居た。
　北原みゆきと響タルトである。
みゆきは、友人が剣道部に参加しているというので差し入れを持って来たのだ。
タルトの方はというと……ちょっと邪な理由があるのだが、それは後ほど語られる。
　すでに、二人が剣道部を訪れたとき、稽古は終わり、一端、防具は片付けられていた。道場の隅の方……風が吹き抜ける場所付近で、矢萩咲の差し入れであるスポーツドリンクを片手に剣道部員達は車座になって語り合っていた。
　形式的に咲は、道場での上座に当たる位置に居るが、それ以外は咲を中心に座っている感じである。
　また、大方の部員は用事があったのか、すでに剣道場には少数の生徒しか残っていなかった。
「お邪魔します～、見学させてもらってもいいですか？　島岡先生に許可はもらいました♪　あ、これ差し入れのおせんべいです～」
「こんにちは、稽古お疲れ様ですぅ。これ、差し入れです」
　そんな中に、剣道部ではないタルトとみゆきが入っていく。
「おぉ、よく来たな。見学に差し入れか、歓迎する」
　咲が真っ先に歓迎の意を示す。
「見学者は……そうだな、体験と言うことで……休憩が終わったら手が空いている人が居たら見てやってくれ」
　わかりましたと、何人かが頷く中、みゆきは御剣刀と伊藤佳奈の近くに座り､弁当を渡す。
「はい、これお弁当ですぅ」
「サンドイッチか、ありがとう」
「ありがとねぇ」
　刀と佳奈がそう言ってうれしそうに弁当を受け取る。
「あと、これみなさんでどうぞ」
　みゆきが、咲にレモンのはちみつ漬けを渡す。
「うむ、感謝する。せっかくなので食べながら話そうか」
　咲が受け取って、中身を開けてみると綺麗にできているはちみつ漬けが姿を現す。
「そういえば、何を話していたんですか？」
　タルトがいる人を見回して聞く。
「おぉ、そうだった……大会の話をしていたのだよ」
「興味あります！」
　きらり、とタルトの目が光る。
（薄い本の参考に、とは言えないしねぇ。でもこれチャンスだもん）
　丁寧に表では答えつつ内心は（ある意味での）邪念にあふれている。
　そんなこんなで、止まっていた話が動き始めたのであった。

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