夏　～剣道部のとある一幕～｜リアクション

夏　～剣道部のとある一幕～

【勝負一番】

「ほらっ、また一本ですよぅ？」
「ぐっ」
　先ほどから、稽古を続けている二人……。
　模擬戦形式で試合をしているのだが、幽が一枚も二枚も上手である。
　その差を痛感しながら、清真はなんとか隙を探そうとしている。
　練習の分、大胆になれるのか何本とられようが引く様子はない。
「……こういう部分はすごいのですよぅ」
「……なぜだろう、慣れか、ある意味」
　ここにいない人物を少しだけ連想しつつ清真は攻める。
　面をつけても奥の顔は無表情である幽……。
　どうやら、一年の中でも注目されている……とはいうものの、実力だけではない部分もある。
（見とれるやつもいるだろうな）
　剣道としての所作と、幽自身の容姿端麗さが相まって、華麗に映る。
　洗練された動きが、敵の意思をくじくこともあるのだ。
（が、負けないぜ）
（自分の積み重ねてきたことをすれば、強いのですねぇ）
　ガッツを見せる清真に幽はさらに一撃を加える。
「面ですよぉっ！」
「ぐっ」
　幽が攻めバチンと綺麗に胴が入る……と思いきや。
（は、早いぜが、その面は……）
　竹刀を上に上げつつその面を受け、急速にすれ違いながら胴を打つ。
「胴ぉっ！」
　……バチンと綺麗に胴が決まる。
　幽に対し、ここで一本返すことに成功した。
（何か、つかんだのですかぁ？）
　そう思いつつ幽は清真をみるが、その姿は気合が充実している。
　……それから、どんどん清真は攻撃に慣れ始め徐々に追いついてくる。
　やがて、打ち合いも終わり、少しだけ幽も疲れを見せる。
「……こんなところですかぁ？」
「……はぁっ！　はぁっ！」
　清真は疲れて大きく息を吐き出している。
　やがて、息を整えると言った。
「つ、次はもっと勝ってやるぜ」
「ご指名とあれば喜んでお相手しますよぉ」
　そういった幽の表情は、少し思案顔であった。

このページにイラストを設定する