夏　～剣道部のとある一幕～｜リアクション

夏　～剣道部のとある一幕～

【試合の話……笹森清真の場合】

　まず、最初に口火を切ったのは、笹森清真であった。
「そういえば、俺の大会結果なんですが」
　そう言って、清真は自分の大会のことをしゃべり始める。

　そう、あれは県大会の二回戦でのことだった。
　相手は、県内の強豪校の選手でパワーで押すタイプの選手。
（パワーがとにかく強い選手なんだが、その学校の中じゃ普通なんだよな）
　同じ学年で、同じくらいの身長……。
「はじめっ！」
　試合開始とともに蹲踞からお互い立ち上がり気勢を上げる。
　びりびりと相手の気迫に押し負けてしまうかと思うくらいの圧迫感を感じる。
（まともに正面からぶつかっても押し負ける。ならば）
　なら、と。
　自分の足と早さを利用して的確に当てていく……そう考えるのが妥当だろう。
　しかし……。
「めぇぇぇぇんっ！　めんっ！」
　右に、左に。打たれれば引き、止まれば打つをひたすら繰り返す。
　が、相手の一撃は重く、こちらに打たせる隙をなかなか作らない。
　剛柔相打つとまではいわないが、相手の剛を柔で相殺しようとして失敗する……。
　そんな、状況が続く。
（体力はあるはずだが、竹刀が重く感じるじゃねぇか）
　何分たったろうか？　公式時間の５分がとても長く感じる。
　握る感覚がだんだん朧気になっていくのがわかる。
　振っているのは腕なのか、竹刀なのか？
「せやぁっ！」
「くっ！」
　ビシリと、相手の鋭く重い一撃を竹刀で受け流す。
　相手の重い一撃は、面に、小手に……直撃コースで降りてくる。
　まっすぐなその一撃を受けた時、ビーンと不思議な感覚が竹刀から伝わってくる。
　読みやすい一撃のはずだが、それがすべてパワーでカバーされているのだ。
「ああ、ちょっと無理かも」
　そう、つぶやいた瞬間だった。
「お面頂戴っ！」
「しまっ」
　ズパーンと、綺麗な一撃が清真を直撃する。
　まるで、その瞬間を見計らったかのような面であった。
「面あぁりっ！」
　結果は、審判３者とも有効打突との判定であった。
　相手にとってはどうかは不明だが、清真にとっては心の隙を突かれた形となったのだ。

　そう、試合の風景を思い出しながら語る。
「そのまま、二本目は精神的にぐだぐだになって……すぐにまた一本とられてしまった。
これが強豪高ってやつかとしばらく放心状態だった……」
　一息ついた清真は、咲からスポーツドリンクを受け取ると一気に飲み干した。
「……ふぅ」
　一息つくと、また負けたことがありありと心の中に浮かんでくる。
（毎日死に物狂いで練習して、どんなに努力しても限界があるのかもしれない……）
　そのとき、咲が口を開いた。
「今までのことを捨てて、別の攻め口を求めたことはよいことか、悪いことか……それはわからないが、ふと慣れぬことをしても、適応できるように自主練習の幅を広げるのもよいかもしれないな。まだ後二年ある。その間に答えが出ればいいな」
「ありがとうございます」
　そう言って、素直に清真は咲に頭を下げた。

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