夏　～剣道部のとある一幕～｜リアクション

夏　～剣道部のとある一幕～

【解散……そして】

「さて、そろそろお開きにしようか。忘れ物しないようにな」
「そろそろ校門も閉まりますしね」
　咲がそう言ってまとめる。
「今回の思い出語りは思い出を語る事で過去の自分を見つめ直して、これからの糧にして欲しかったのが一つ。それと、こうやって皆で思い出語りをする事で連帯感を高めて欲しいのと……これ自体がいい思い出になっただろう？」
　見れば、咲の言葉に頷いているものもいる。
　一拍の余韻の後、咲は告げる。
「……では、解散」
「「「お疲れ様でした！」」」
「「「失礼します」」」
　どれくらい話していたであろうか、あれからすっかり日は暮れてしまっていた。
　しかし、みな、どこか満足げに帰り支度をして帰って行くのであった。
「たまには……こういうのもいいか」
　そう言って咲は荷物をまとめる。
「そういえば」
　荷物もまとめ終わり帰り支度が終わった後、出てきた咲に戸締まりのため残っていた幽が話しかける。
「そういえば、部長は大会にでなかったんですかぁ？」
「……咲は自分の成績にはあまり興味はないからな。それよりも後輩達の活躍を見ているのが楽しいかな」
「……ふぅん」
　そう言って、笑う咲を幽は見る。
　その幽の無表情の奥に何が隠れているのであろうか、咲にはわからないが、彼もまた何かを考えるきっかけとなったのだろうか。
「戸締まりをするから先に帰ってくれ」
「しかし……」
「咲がやりたいんだ」
　今日は譲らないぞ、と言う咲に、お疲れ様でしたと幽は帰って行く。

　……。

　夜の闇に包まれつつある道場にそっと月光が差し込む。
　戸締まりされたはずの、場所を空け咲は中へ入り一礼する。
（咲は…剣道が嫌いだった）
　そっと正座をし、黙想をして想いをはせる。
　頭の中は、空っぽになっていないが……それが目的ではない。
（自制心を養う為と称して厳しい礼儀作法にキツイ練習……どれも小さい頃はやりたくなかったけど、自分にかかわった人が……その人がよいにしろ悪いにしろ、そんな人たちが居なければ続けていなかっただろう）
　そう思い、いろいろな人たちの顔を思い浮かべる。
　特に……部員たちがいろいろと試行錯誤をして練習する姿や、大会でかって喜んでいる姿を思えば、こうして剣道を続けてきたことがよかったと思えてくる。
（今日の皆の思い出や想いを聞いて……やっぱり剣道が好きなんだと再確認出来たな）
　そう言って、改めて心を整理すると、戸締まりをして、そっと道場を出て行く。
「引退した身だが、願わくば剣道部がこれからも栄えていく様に」
　その言葉とともに、道場は完全に戸締まりされたのであった。

おわり

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