Night aquarium｜リアクション

Night aquarium

　もうすぐイルカショーが始まろうとしているその頃、御巫時子は真っ直ぐにペンギン達がいる水槽へと向かっていた。
　本当なら入館してすぐにでも向かいたかったのだが、人が沢山いてはペンギン達と話をするのは難しいかもと思い他の水槽をゆっくり見て回っていたのだ。

「とても綺麗ですね……夜の水族館と、光のライトアップがこんなに綺麗なんて思ってもなかったです」

　ほう、と感嘆の溜息をひとつ漏らして時子はペンギンの水槽へと急ぐ。
　ペンギン達の水槽ではどのようにライトアップされているのだろうか、もしかしたらされていないかも……？　ペンギン達は夜は眠るものだし……でもそうだとしたら寝ているペンギンさんが見れるかもしれない。そんな期待をして、時子はふふ、と微笑んだ。
　この角を曲がれば、そこはペンギン達の水槽。わくわくする気持ちを胸に、時子は角を曲がる。

「わぁ……！」

　ペンギン達の水槽は、昼間訪れるよりも証明が落とされて夜の雰囲気が醸し出されていた。そして控え目ながらも観覧スペースには夜空のようなライトアップが施されている。そして時子の考えていた通り大半のお客さんはイルカショーに行ったのだろう、ペンギンの水槽前は時子の貸切状態になっていた。
　本当に外の世界でペンギン達を見ているような気持ちになれる、心地良い空間がそこにはあった。時子は暫くその光景に見惚れていたが、ここに来た目的を思い出してペンギン達の水槽へと近寄る。
　そして心の中で強く願う――ペンギン達と会話がしたい、と。それは時子のろっこん、『鳥の囀り』……鳥類と会話する能力を発動する為の条件。

「こんばんは、ペンギンさん達。時子です」

　ペンギン達の水槽へ顔を寄せて、寝ているペンギン達への配慮かそっと優しく語りかける。すると、起きているペンギン達がスッと泳ぎながら時子の方へと向かってやってきた。

『こんばんは！』
『こんばんは、おねーちゃん』

　普通の人が聞けばペンギンがキューンと鳴いているようにしか聞こえないけれど、ろっこんを発動した時子には人の言葉として届いていた。

「眠くないですか？　大丈夫？」
『だいじょうぶ！』
「今日はどんな事があったか、聞いてもいいですか？」
『うん！　きいてきいて！　今日はねー……』

　弾むような声でペンギン達は時子に今日は何をしていたか、どんな事があったかを教えてくれる。それに相槌を打ち、笑ったり驚いたりしてくれる時子にペンギン達は楽しくて仕方がないという風に話をしてくれた。

『ふぁ……もっとお喋りしていたいけど、眠くなってきちゃった』
『ボクも……おねーちゃん、またね！　また遊ぼうね』
「はい、夜は眠る時間ですものね。とっても楽しかったです、きっとまた会いにきますから……」

　名残惜しそうにペンギン達は時子の近くを回るように泳ぐと、仲間が眠る場所へと戻っていった。
　そっと水槽から離れ、眠ろうとするペンギンを見る。さっきまで話をしていたペンギンも今は目を閉じてじっとしている。立ったまま眠るペンギンや、横になって眠っているペンギンを見て自然と笑みが溢れる。

「おやすみなさい……」

　そう聞こえるか聞こえないかの声で呟くと、時子はゆっくりと水槽を後にした。