ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！｜リアクション

ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！

　盛り上がるステージからやや距離はあるが、それでも大盛況のこの場所は、特別開店の『駄菓子屋ねこや』出張所である。
「フェスティバル、つまりお祭、ということで、夏祭りらしいものを揃えたよ」
　看板娘は猫村翡翠、ずらりならべたその商品、近くによってとくご覧じろ。
　リンゴ飴、杏飴、梅飴、などの季節の果物を使った飴が賑やかせば、
　トマト飴、キュウリ飴、大根飴、などの地域の野菜を活かした変わり種飴も目を引く。
　なおこれらの飴はすべて、無添加の水飴を使用しているという嬉しさだ。
　さらには綿飴、この綿飴については、割り箸を外し袋入りで売ることにした。万が一、箸をくわえたままライブのモッシュにでも揉まれれば事故は必至だからである。
　そして、ラムネ、これは、
「やっぱり、ラムネは、ガラス瓶じゃないとね」
　という翡翠のこだわりからすべて、昔ながらの瓶だった。
「最近はラムネといっても、ペットボトル入りが多いようですが……」
　店を手伝う森蓮が問うも、ノンノン、と翡翠は指を振る。
「ペットボトルにビー玉じゃあ、軽い感じがするんだよ。そりゃあ、安全だけど」
「なるほど。重いですが、瓶のほうがよく冷えている感じもしますしね」
　それから、と翡翠が取り出したのは地サイダー、その名も『寝子島サイダー』だ。
　商品ラインナップは以上だが、翡翠は友達が訪れたときのために、特別メニューも用意していた。
　野々ののこには、大玉のリンゴ飴もとい、梨飴を。
　七夜あおいには、爽やかな青リンゴフレーバーのラムネを。
　そしてサンマさんに出会ったときのために、エナジードリンクテイストのラムネも用意している。こんな暑さの中じゃサンマの干物になってしまうかもしれないから！
　昔ながらの駄菓子屋は、開店するなり大盛況、うっかり昼食を食べる暇もないほどだった。それでも蓮や叔母と交替で時間を作って、米粉パンの野菜サンドに、ガスパチョに温めの麦茶というランチをしっかりと翡翠はとっている。
「ごめん、忙しかった？」
　と戻った翡翠を、蓮は穏やかな笑みで迎えた。

「忙しいと言えば忙しいですが、なんとか対応はできています」
「ごめんね蓮、全部任せちゃって……」
「いいんです。誕生日のときの恩返し、まだしていませんでしたので」
　蓮は以前、誕生日に翡翠から、ザッハトルテをもらった恩があるのだ。しかもそのザッハトルテは、菜食主義の彼でも食べられるよう、卵や乳製品を一切使わない特別品だった。
「ああそういえば、ここで修と、ザッハトルテ作ったんだった」
「私のために、ありがとうございます。あのときのザッハトルテは本当においしかったですよ」
「お菓子作りは好きだから気にしなくっていいのに……まあ、蓮の主義に合わせたから、難易度が上がっちゃったけどね」
　それはそうと、と翡翠は訊いた。
「お腹の傷、大丈夫って聞いてるけど平気？」
「お気遣い感謝します。力仕事は難しいですが、調理や接客なら問題ありません」
　怪我の功名、というのは少し違うが、怪我をしたおかげで、蓮にも幸いなことはあった。
　それは普段、あまり話せない翡翠とこうして、じっくり話す機会を得られたということ――。