ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！｜リアクション

ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！

　とん、とんとん。石段を登る。
「流ちゃん、こっちこっち」
「待ってよ琴櫻君」
　旧市街を練り歩くパレードの終着点でもある寝子島神社は、傾く太陽でオレンジ色に照らされていた。
　琴櫻輝之助は東雲流を手招きし、石段の途中に腰掛ける。
　街並みが、遠く海まで見えた。
「……ふぅ、一日中歩き回ったらさすがに疲れたぜ」
　輝之助は自販機で購入したニャンタグレープのボトルを開ける。
「本当ね」
　流も真似て、アクアスエットのボトルを開けた。
　乾杯。
　言葉なくボトルを打ち合わせ、渇いた喉に流し込む。
　一日、いろいろと見てすごく新鮮で楽しかった。
（なんだか名残惜しい……かも）
　そう思う自分がいることに流は少なからず驚く。
　流のボトルは水滴に濡れていた。輝之助のもそうだった。輝之助は意に介す風もなくボトルを傾けている。
　喉が鳴る。喉仏が上下する。少年だと思ってた彼は、男なんだと気づく。思わず目を逸らす。
「あ……」
　何を言いかけたのか、自分でも分からなかった。
　遠くからマーチングバンドの音が聞こえてきた。言葉はそれに上書きされた。
「パレード、こっちに来たみたいね」
　見たいな……と思った瞬間、輝之助に腕を掴まれた。
「行こうぜ」
　さっきまでの疲れも忘れたかのように、輝之助は目を輝かせている。
　流は頷く。
　輝之助に手を引かれ人波を縫う。一番前の列に飛び出す。
　目の前を、カラフルな制服に身を包んだマーチングバンドが通り過ぎる。
　太鼓もラッパも高らかに。

　すごく嬉しい、ってこんな感じなんだ……。
　流は輝之助を見た。
　――また一緒におでかけしたいな、なんて思いながら。

◇　◇　◇

　最後に一発かましたろか、と思っていた骨削瓢は、ろっこんの不発に己が手を見つめる。
　それから口唇を弓のようににぃと引いた。
　ははん、どうやらまだ恋愛じゃあないと来たもんだ。いやいや、これから恋愛になるかもわからない。
「甘酸っぱいねぇ。青春だねぇ」
　くくく、と喉の奥から笑いが込み上げる。
　瓢はそれを抑えることはしなかった。けらけらと声をあげてひとしきり笑い、そして歌った。

　　　♪ちんちんどんどん　ちんどんどん　ネコフェスパレードもおしまいだ
　　　　お嬢ちゃん　お坊ちゃん　さようなら
　　　　お爺ちゃん　お婆ちゃん　まだ行くかい？
　　　　ちんどんちんどん　行こうじゃないか　祭りだ祭りだ　あの世まで♪

　これが、ネコフェス・パレードの終宴だった。
　思い思いに音楽の宴を楽しんだ人々は、グランドフィナーレとなる約束の地、寝子ヶ浜海岸へと流れてゆく。

「今日は楽しかったでござるよ」
　ござるさんの姿が人知れず消えていた。日々野結衣香は耳朶に残る彼の言葉を胸の内で幾度も反芻する。
　――私も楽しかったです。またね。
　今日のことはきっと、闇を照らすあたかい思い出のひとつとなる。そんな気がした。