【ネコミケ】修羅場を超えろ！寝子島大爆発！（芸術的な意味で）｜リアクション

【ネコミケ】修羅場を超えろ！寝子島大爆発！（芸術的な意味で）

　椿美咲紀は数学が苦手である。
　だが、夏のこの時期、彼女は異様に“掛け算”が得意になる。
　ネコミケの冊子版パンフレットを真剣に眺めながら、椿はボヤく。
「平凡な、いち新聞部員の私がネコミケで販売出来るような課題が描ける訳ないじゃないですかぁ。新聞部として、ネコミケ取材には行きますけれども！」
　これはっと椿は赤ペンでお目当てのBLサークルを丸で囲う。
「誰がなんと言おうと取材なのよ。現地で薄い本とか買い漁るのも、ネコミケの実態に迫るためなのですよ！」
　その割には腐っているジャンルに丸が多い。
「実態を知るためです！　決して私は腐ってません！」
　自身に言い聞かせるように呟く椿。
　だが、サークルカットで美少年同士の際どいイラストを見るたびに、顔を赤らめニヤけ出す。
「なになに？　美少年２人の×××？　きゃぁぁ！　見逃せません！　はぁぁぁんっ、きゅんきゅんしまするぅ！」
　身悶えするその姿は、完全に腐女子のソレ。
　残念なことに、椿は自分を腐っているなんて思ってもいないのだった。

「うふふふ……、取材ルートも確定しましたし、今日はそろそろ寝ましょう！」
　就寝の準備をしていた椿に、神魂の影響がやってきた。
「――ハッ！　これは、天啓！？　そうよ、身内の同次元実在人物でも、名前を変えてしまえば元ネタは分からないわ！」
　椿の脳内の“掛け算”が目まぐるしく発動する。
「小説にしてしまえば、漫画と違ってぱっと見ても分かりにくい！　ここ重要！　私冴えてる！」
　早速、白紙のノートを取り出し、つらつらと書き連ね出す椿。
「日頃から妄想を重ねた甲斐があったわ。文章っていいですよね、美麗な絵が描けなくてもクールで美形なお兄さんやキュートな男の子を描き放題ですよ。絡み放題ですよ！」
　多幸感溢れる緩んだ顔付きのまま、椿はどんどん日々の妄想をBL小説化していく。
「妄想？　いいえ、想像力です！　大きく羽ばたけ、私の想像の翼っ！」
　彼女はフラミンゴのように片足立ちで両腕を高々と挙げた。

　荒ぶる美咲紀のポーズ！

　思い浮かべるは、身近な男子２人組。
　美少年２人が日常生活の中で心ときめくイベントをこなして、そして……！
「いやぁぁぁん、自分の作品に超きゅんきゅんしまするぅ！」
　椿はベッドにダイブし、ごろごろもだもだし始めた。
　なんという萌えの自家発電だろうか。
「大変なのです、この熱い想いを出し切らないと！　……うふふふふ！」
　既に彼女の眠気は、裸足で尻尾巻いて逃げていった後である。

　椿はこのあと、何度もベッドにダイブしながらも、朝までにノート１冊分の分量を書き上げてしまった。
「結構文量書けちゃいました……。これは一体どおすればいいんだぁ……」
　極めてフラットな口調で、芳しい腐った香りがする一冊のBL小説ノートを椿は読み返しながらふと思った。
　……まさか、私って……。
「……いやいやいや、私は断じて腐ってませんから、あは、あはははは……はぁ……」
　椿の言葉は、夏の爽やかな朝の風に溶け込んでいった。