【ネコミケ】修羅場を超えろ！寝子島大爆発！（芸術的な意味で）｜リアクション

【ネコミケ】修羅場を超えろ！寝子島大爆発！（芸術的な意味で）

【爆発レベル１：個別で爆発してみた】

　混乱のカラス、クローネの神魂暴走からさほど時間が経っていない午後４時。
　寝子島はかつてないほどの芸術という名のビッグウェーブに飲み込まれた。
　例えば、自宅で修羅場を迎えていた島民たち。
　彼らは個人で芸術性を爆発させていたのである。

　伊藤恵美はアラフォーの主婦である。
　娘は寝子高生という母親である。
　だが、外見は高校生にしか見えない。
　美魔女パネェ。
　その外見のおかげか、今尚、現役のコスプレイヤーとして活動中だ。
　勿論、同人作家としても腕を振るっており、彼女のファンも割と多い。
　そんな恵美もまた、締め切りに追われて修羅場を迎えていた。
「夜食と栄養ドリンクの準備よし！　家事も終わらせたし、今夜は徹夜よ徹夜！　明日家族の朝食を作る時間までには終わらせなきゃ！」
　ちゃんと母親であることを忘れずに、印刷所への入稿期限とにらめっこ。
「もう時間がないわ、ラストスパートよ！」
　恵美は今年の夏のネコミケに使用する衣装へ目をやる。
　白を基調とした猫をモチーフとしたドレスと巨大な棺桶、白髪のウィッグと付け眉毛。
「ニャイミダラーも面白いけど、今年の春アニメの私の一押しは『棺のニャイカ』ね！」
　正統派ファンタジーライトノベルがウリの文庫レーベルから出版されている『棺のニャイカ』は、昨今あまり見ない王道のファンタジーノベルである。
　恵美もこの原作を愛し、今春のアニメ版は欠かさず視聴していた。
　勿論、ブルーレイも既に予約済みだ。
　そんな彼女はニャイカのコスプレをするのは必然。
「うぃ、製作過程、前途多難。でも妥協、否定。故に完成度、最高！」
　既にニャイカ語と呼ばれるヒロインの口調まで完璧にコピーしている恵美。
「……お陰で原稿が危ないのよね。こうしてはいられないわ」
　ニャイカから原稿に意識を切り替え、焦る彼女は必死に描き始めた。
「私の趣味で家族に迷惑かけられないから作業時間はどうしても夜遅くになるし、って言い訳ね」
　恵美は同人作家としての矜持に掛けて、ひと晩で残りのページを書き進める決意をした。
　そこへ今宵の神魂効果が発動する。
「……あら、今夜は調子いいみたい！」
　線がスラスラ描ける、コマ割りがどんどん思い浮かぶ。
　何だか絵も気合が入って、キャラの描き込みもしたくなる。
　恵美が描いているのは、ヒロインのニャイカとその旅の仲間のトオルとの純愛譚だ。
　トオルはニャイカの願いを叶えるべく、文字通り体を張って困難に立ち向かっていく主人公だ。
「成年向けのえっちぃ方が売れるんだろうけど、私苦手なのよね。それでも買ってくれる人がいるし、ファンって本当にありがたいわ」
　即売会で扱う全ての同人誌が性描写があると誤解している方もいるようだが、実際は健全な内容の同人誌もちゃんと販売されている。
　安易なエロに走らず、キャラとシナリオ性でファンを楽しませるのが、恵美の作風なのだ。
「そういえば、学生時代も締め切り前は愚図愚図していたわよね……」
　ペンを走らせながら下書き、ペン入れ、墨入れをこなしながら、恵美は当時を回想する。
「大阪での高校時代は先輩怖かったな。原稿おとしたら大阪南港に沈めるぞって、あんたはヤクザかっての！」
　真夜中の自室で、彼女はひとり漫才を展開。
　誰もいない空間を右手で払ってみせた。
「……って突っ込みは流石に言えなかったわね、先輩の目、あれ本気だったもの……」
　昔の恐怖感が蘇り、ぶるぶるっと背筋を震わせてしまった。
「さて、ちょっと夜食休憩しようかな。……なんだか今夜はやけに騒がしいわね」
　夜食を準備しながら、恵美は窓から外を見る。
　――七色の女性用下着を身に付けた青年が、奇声を上げながら連続側転で彼女の家の前を通過していった。
「……さ、お腹も膨れたら、もう一頑張りしましょう！」
　恵美は見なかったことにした。

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