あつくてあつくて｜リアクション

あつくてあつくて

◆
まだ日中の暑さが残る、夕暮れ時の帰り道。
「今日はお世話になりましたし、感謝の気持ちってことで」
春告は茜にアイスを奢ることにした。それも、会計時にささっと二人分出すスマートなムーブである。
茜はと言えば、嬉しいけどもちょっと複雑な気分。お礼とはいえ、先輩なのに後輩に奢ってもらってしまったのだから、当然と言えば当然。
そもそも勉強を教えたのだって、本人としては先輩として当然のことをしてあげただけだし。
だから。この場は素直に奢られはするけれど、少しだけ頬をふくらませる。
「むーっ。次は私に奢らせてね！」
だけどもすぐに、「約束ねっ」と無邪気な笑みを浮かべるのだった。

◆
桜花寮。
結局、耀は侑を寮の玄関まで送っていった。
「……今日は楽しかった。また遊ぼうな」
「今日はありがと！　また！」
夕暮れの中に去っていく耀に、侑はぶんぶんと手を振り続ける。
やがてその姿が見えなくなって、侑は降ろした手をそっと胸に当てた。いつもより、鼓動が早い。
（工藤君に支えてもらった時から、なんだかすごくドキドキする……）
今日は暑かったから、熱中症になりかけているのだろうか。
でも――
「そうじゃない気がするに……」
このドキドキは、何だろう。
自問してみても、答えは出そうになかった。

夕日を眺めながら、正也と剛はアイス食べつつ黄昏れていた。
「ずっとかわええ弟やと思うてたんに……何や寂しゅうなってきた」
「まさか妹分に先をこされるとはなー……」
お互い、まだまだお子様だと思っていた。だけど、それは自分達の勝手な思い込みだった、のかもしれない。
「あないなこと言うたけど……あいつが楽しそうで幸せなら、見守るしかあらへんよな」
「だよなー……温かく見守ってやるかー」
本人たちが幸せなら、彼らにできるのはそれだけなのかもしれない。
それがきっと、兄貴分というものだ。
「……あきを泣かせたら俺が承知せえへんで」
「それ言ったら俺だって侑泣かせたら承知しねえよ……」
……いやあ、
「「青春、やなぁ」だなあ」
兄貴分二人のぼやきが、夕暮れ空に溶けていった。

◆
頂上に着いた頃には、すっかり夕暮れ時になっていた。
「……すっかり夕方って感じね」
西の空に沈みかけた太陽を眺め、そよそよとそよぐ夕風に髪を揺らしながら紫蓮は呟く。
視線を下ろせば、鮮やかなオレンジ色に染まった空が三夜湖の水面に映り込んでいる。
「でも、夕焼けの湖って何かいいかも」
「すっげー綺麗！　暑いの乗り越えて登ってきただけある！」
両腕を大きく広げ、譲は感無量といった様子で叫ぶ。カメラを手に紫蓮に振り向く。
「折角だし記念撮影するよ。今日の思い出……そんでもって再会出来た記念！」
ぐっと親指を立てた譲の笑顔につられ、紫蓮も小さく笑みをこぼす。
「ふふ、美人にとってよね」
「だいじょーぶ、心配しなくても紫蓮ちゃんは美人さんだからね」
そんな軽口を叩きながら、写真撮影。
「それじゃあ行くよー！」
――パシャリ。
夕焼け空と三夜湖をバックに、風に髪をなびかせ微笑む紫蓮の姿がファインダーに収められた。
「はいオッケー！」
「ありがとね、譲にいさん」
ふと後ろを振り返ってみると、海が見渡せた。やっぱりオレンジ色の空を移して、一面その色に染まっている。
「いいとこよね、ここ。来るのは結構苦労したけど、来て良かった」
さて、と譲の方へ向き直る。
「じゃあ、帰りもゆっくり帰りましょうか」
「そうだね。あ、汗もかいたし温泉でも寄ってく？」
確か、ロープウェイの砂掛谷駅の近くにあったはずだ。
「いいわね、そうしましょ」
夕暮れ時の登山道を、二人並んで降りていく。

後日、途中でとった写真もまとめて現像したものが譲から紫蓮に送られたとかなんとか。

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