あつくてあつくて｜リアクション

あつくてあつくて

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喫茶店で、紫蓮と譲は思い出話に話を咲かせていた。
「あー、九夜山かぁ。昔登ったよね」
窓の外に目を向けると、九夜山の姿を望むことができた。思い出されるのは、登った時の記憶。
あの日も確か、こんな暑い日だった。
「置いてかれないように、付いていくのに必死だったな」
懐かしむように呟かれた言葉に、譲の水を飲む手が止まった。
「えっマジで……？　気付かなくてごめんね！」
額に手をやって、かつての自分の所業に眉根を寄せた。
「うわー小さい女の子に無理させるとか最低じゃん俺……」
紫蓮は苦笑を浮かべ、顔の前で軽く手を振った。
「ああ、謝らないで。子供の頃の話だし」
そう言われても譲にとってはなかなかショックだったようで、尚もへこんだ表情を浮かべている。
「……でも、なんだか登ってみたくなっちゃったな」
「えっ？」
「ね、譲にいさん」
あごを手にのせ、ちょっと頭を傾げる仕草。
「……行ってみない？」
何処へかは、言わずもがな。
「……そうだね、行ってみようか！」
それまでのへこみはどこへやら、一転して乗り気な笑顔を譲は浮かべる。

◆
真夏日の九夜山の登山道。
「ふう……流石に暑いわね」
手うちわしながら漏らす紫蓮に、
「こんな真夏日に登山とか中々のチャレンジャーだよね俺たち」
まだまだ照りつける太陽を見上げ、譲は笑いかけた。
「まあ障害（？）は多いほど燃えるしね！　さくっと登ってみよう！」
早速登り始めようとする譲だったが、
「譲にいさん、私ね」
紫蓮の言葉に足を止め振り返った。
「寝子高に入って最初のオリエンテーリングで、こう言われたんだ」
"目の前の景色ばっかりじゃなくて時には自分が歩いてきた道を眺めるのも、良いモンだぞ"、って。
だから、昔は背中ばっかり見ていたけど。
「今日は、ちょっとゆっくり登ってみたいかな。譲にいさん、カメラ持ってるんでしょ？　色々撮りながら行こうよ」
その言葉に、譲は小さく笑ってみせた、
「じゃあ今日は、景色見ながら登ろうか。俺も周りの写真撮りたいしさ」
持ってきていたカメラをケースから出し、首からさげる。
「夏って植物とか生き生きしてて、生命力感じて好きなんだよね」
ゆっくりとした足取りで進み、早速一枚飛んで行く鳥を写真に収める。
「今日撮る写真、また今度見せてね」
「もちろん」
（……紫蓮ちゃんに気付かれないように、紫蓮ちゃん自身の写真も撮っておこう）
実はこっそりそんなことを考えているとは、露も知らない紫蓮だった。

◆
というわけで、やってきました屋内プール！
水は冷たいし、周りも涼しくて気持ちがいい。
「来てよかったわ……」
うだるような暑さから解放され、晴れ晴れとした表情で呟くブランシェ。
隣にはスクール水着に身を包んだ冬華。
「刀さんは何処でしょう？」
きょろきょろと辺りを見回していると、横から「ここに居たのか」と刀が声をかけてきた。
何故か口元を抑えている彼を見て、どうしたんですかと冬華は問いかけるが、何でもないと首を振った。
まあしょうがないことだ。
（水着姿の美少女とか眼福ですはい）
しかも二人も。変な顔にならないように必死なのだ。仕方ない、眼福だから！
「じゃ、揃ったことだし……競争でもしてみる？」
向こう岸まででどう、とブランシェ。
「面白そうですね」
「お、競争なら負けないぞ」
二人の反応にニッと笑って、
「決まりね、準備運動したら早速始めましょう！」
プールでたっぷり遊んだ後は、カフェレストランでお喋りを。
残り少ない夏休みをどう過ごすつもりかとか、宿題の進捗状況だとか。
そんな他愛のない話をするうちに、いつの間にか日は暮れていった。