おいでませ！　おひとりさま｜リアクション

おいでませ！　おひとりさま

　佐藤英二の休日は、実に充実していた。
　カラオケショップでマイクをぐっと握り締める英二。
　勿論、歌い放題６時間ワンドリンク！
　寝子島の中でもヒトカラ用の個室が多いこの店は、英二のお気に入りだった。
　手元の選択画面を弄くって、次の曲を選んでいた英二の指先が、ぴくっと止まる。　
「お？　おぉ、まさかこんな曲までフォローされてるなんて！　これは是非歌わないと」
　正直、友達の前で歌うのは恥ずかしいというか、ヤバイと言うか。
　かなりマニアックなその曲は、こっそりひっそり英二がはまっている曲。
　つい先日ニャコニャコ動画で話題になったりもしたのだが、友人達にこの選曲はバラせない。
　ヒトカラならではの選曲といえよう。
　モニターに映る映像も、愛らしい少女のアニメ動画。
　映像の中の少女はツインテ－ルの緑の髪を揺らし、切なく、それでいて高く澄んだ独特の高音を維持するボ－カロイドだ。
　美麗イラストレ－タ－の描くボ－カロイドは見目麗しく、普段友達の前では絶対じっくりなど見れない大画面のボ－カロイドを、英二は思う存分堪能する。
　だがしかし。
　見事に歌いきった英二は、軽く唇を尖らす。
　歌には自信のある英二だが、男性。
「この歌好きなんだけど、やっぱり女性ボーカルの方がしっくり来るよね」
　音を外す事はないものの、英二的には不満らしい。
「今度、女子がいる時にリクエストしてみようかな？」
　まぁ、無理だけど。
　心の中でそう付け足す。
　マニアックな曲だから、下手するとオタク扱いされてドン引きだ。
「そういえば、採点機能あったっけ」
　英二はふと思い出し、採点設定を入れる。
「これも、友達の前じゃしづらいしね」
　自分はいい。
　多少採点が低くとも構わない。
　もっとも、低かったことなどないが。
　問題は、友人が低かった時！
　笑いを取ってくれればいいが、マジ顔で凹まれたら……フォローがもう、気まずい事この上なし！
　十八番の曲を歌いきる英二の前に、さんぜんと輝く高得点！
　思わずがっつポーズをとる英二。
「しかし、ランキング上位の人の点数とんでもないなー」
　上には上がいるもので、かなりの高得点をたたき出した英二よりも、さらに上の得点が。
「よし、ここは一つ歌いこむか」
　唸れ、俺のコブシ！
　同じ曲をもう一度入れて、気合入れて歌いなおす英二。
　そんなことを何十回も繰り返していると、６時間なんてあっという間。
　カラオケ店を出て、英二は夕暮れ時の町並みを眺める。
（ヒトカラもいいけどさ。今度は、みんなで来るか）
　友人達の顔を次々と思い浮かべながら、英二は満足げに帰路に着いた。　