おいでませ！　おひとりさま｜リアクション

おいでませ！　おひとりさま

　岡野丸美は、窓辺からさす夕日にふぅっと溜息をつく。
　本当は、今日は実家に帰っているはずだった。
　けれど色々重なって、結局桜花寮の自室で過ごすはめに。
（彼女、熱下がったかな）
　いっしょに遊ぶはずだった友人を思い出す。
　寝子島に遊びに来るというので、今日は一日かけて案内する予定だったのだ。
　都会的に開けたシーサイドタウンはもちろんの事、寝子島神社に旧市街、それに町中のお猫様。
　こんなにのびのびと野良猫が過ごしている地域は、まずお目にかかれない。
　友人もそれはそれは楽しみにしていたのだが……。
（夏風邪が流行っちゃったんだから、しょうがないよね）
　
　――元気になったら、また改めて遊びに来てね。無理せず、お大事にね。

　そうメールを送ったのは今朝の事。
　まだ返事はない。
　スマフォを見つめる丸美の目の前で、着信が！

　――心配かけてごめんなさいっ。だいぶ熱は下がったよ～。お母さんにはアイスの食べ過ぎだって笑われちゃった。丸美ちゃんも食べ過ぎ注意だよ？　来週はきっと、遊びに行くね♪

　可愛らしい絵文字つきのメールに、丸美はホッと胸を撫で下ろす。
　よかった。
　友人が気になって、でもちょこちょこ電話もかけれないし。
　部屋の掃除をして過ごしていたけれど、これで一安心。
（だいぶ涼しくなってきたし、散歩でもしましょうか）
　昼間はあれほど激しく照り付けていた太陽は、いまはやさしく緩んでいる。
　思い立ったが吉日。
　丸美はうきうきと浜辺に足を運ぶ。
　靴を脱ぐと、砂の柔らかい感触が心地いい。
　軽く砂を蹴ると、ぱらぱらと舞い散る。
　楽しかった。
（どうせなら、色々作るのもいいわ）
　おもむろに砂をかき集めて、サンドア－トに勤しむ丸美。
　通りすがりの人々がちらちらと見ているが、気にしない。
　海水で程よく湿った砂は、適度な固さを維持して、立体的に盛り上げていっても崩れない。
　特にこれといった遊び道具を持ってきていなかった丸美だが、そこはそれ、芸術科。
　器用な指先は作れば作るほどこつを飲み込んで、いつしか丸美の周囲には珊瑚やお城、真珠貝にウツボに、とどめにどうやって作ったのか謎過ぎるイソギンチャクまで作り上げられていた。
（誰にも止められる事無く、遊び続けていられるって、うん、楽しいわ）　
　周囲の人が感嘆の溜息を漏らす作品群は、あたりが暗くなるまで作り続けられた。

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