夏空にたなびけ、大和の旗！｜リアクション

夏空にたなびけ、大和の旗！

「ちょ、褌大会とか聞いてませんわよ！？」
　燦々と照りつける太陽のお膝元、寝子高プールの脇に見慣れないテントが建てられていた。
　ここは水泳大会の選手の控え室として設けられた場所なのだが……財前華蓮は渡された褌を握りしめ、ぷるぷると震えていた。
「名誉を賭けた美しさを競う大会……と聞いていましたのに、こ、これではただの痴女ではありませんか」
　それから、睨むように褌を見た。
「というかコレ、完全にTバックですわ……。私が欲しいのはこういう目立ち方じゃありませんわ……」
　もう帰る、と出ていこうとした彼女だったが、いやしかし、待てよ……と心のどこかで止めるものがあった。
　財前華蓮ともあろう者がこんな布切れ一枚で尻込みしていていいものか？
「こんなにもたくさんの人の前で、出場辞退などと言ったら……逃げ出し女の汚名を背負うことに！」
「褌握りしめて、どうしたの？」
「ひっ！？」
　無邪気に話かけてきた、野々ののこに華蓮は思わず後ずさり……。
　ハッと彼女を見れば、純白の晒と褌をなんとも自然に身に付けているではないか。
「くっ……なんと堂々とした着こなし。に、逃げませんわ！　私、逃げませんから！　お調子に乗るんじゃありませんわ！」
「うーーん……よくわかんないけど、がんばろーねっ」

　＊＊＊

「……なんだこれは。褌男子が泳ぐのは百歩譲っていいけど……」
　同テント内。志田朝陽はゴクリとつばを飲み込んだ。
「女子ィィ！？」
　遡ること数日前、水泳大会での敗北にへこんでいた彼に、担任の浅井幸太先生はこう言ったのだ。
　今度、水泳大会をすることになったんだ。そんなに落ち込んでないで、この大会でリベンジしようなっ。
　その提案に、即答で乗った朝陽だったが……。
　その時聞いたはずの詳細は、右から左、完全に聞き逃していたことを当日知ることになった。
「どどどどういうことだよ！？　うわっ、露出高い後ろ！　後ろー！？」
　思春期男子には刺激の強過ぎる景色であった。
　人、その景色を桃源郷と呼ぶ。
「しょ、しょうがねー。目をそらしてやり過ごすぞ……。お、俺は変態じゃないから、ジロジロ見たりしないぞ、うん」

　＊＊＊

　一方、こちらも同テント内。
　この大会に並々ならぬ意欲を見せる、陸上部の後輩の姿を冴木竜司は見つけた。
「よかったな、後木！　念願の褌大会だぜ！」
「あ、竜司ちゃんセンパイなのだ！　ありがとうなのだ！　今日はたくさんの褌が見れるから楽しみなのだ！」
　後木真央は、竜司に元気いっぱいの笑みを返した。
　いつもニコニコ、元気印の彼女は、今日はいつも以上に楽しそうな笑顔だった。
「……だがな、後木。悪いが今日は、寝子高褌男筆頭として勝たせてもらうぜ！！」
「！？　竜司ちゃんセンパイが燃えているのだ！」
「フフフ、今、燃えないでいつ燃える。俺には勝たなくちゃならない理由があるんだ！」
「理由なのだ？」
　ふと、彼の視線が自分ではなく、別のところに向いているのに気づく真央。
　竜司の視線は真央を飛び越え、その先、プールサイドにある審査委員のいる小さなテントに。
　本日の審査委員として駆り出された相原まゆ先生を、その目はがっちりホールドしている……！
「何たって、まゆ先生が見てるからな！」
　今、彼はこのアスファルトも溶け出すような真夏の日差しよりもアツく、ハートをたぎらせているのだった！

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