校長先生による開会宣言……は長くなるので割愛して、まずは第一の種目『プールサイドウォーキング』。
　本大会は３つの競技の総合得点によって優勝者が決定される種目だ。
　順位の他、芸術点、オーディエンスへのアピールが得点として加算されるのである。
「おっ。最初は俺か。出るからには優勝目指していかなくっちゃな！」
　一番手の登場は、柊沢 北斗。バスケットボールで鍛えた肉体美に真っ赤な六尺褌を締めての登場だ。
　背筋をピンと伸ばして、堂々とプールサイドを歩く。
　明るい彼らしい朗らかな笑顔に、オーディエンスの女生徒から、きゃっきゃっと楽しそうな声が上がった。
「はははっ。なんかいいなこういうのも……。おーっす！　皆、俺のこと応援してくれよな！」
　そして、オーディエンスに向かって、ボディビルダーのようなポーズ。
「きゃっ。柊沢先輩、結構たくましいんだ……」
「いつも明るくて楽しい人だと思ってたぐらいだけど、なんか、こうして見るとカッコイイかも……」
　女の子の反応に気を良くした彼は、審査員席に前でもバシッと変身ヒーローのようなポーズを決める。
「ほっほっほっ、元気があっていいねぇ。褌も喜んでるみたいだね」と校長先生。
「おっ、柊沢。無駄がない筋肉だな。いいぞ、ちゃんと練習に励んでる証拠だ。先生、点数上げちゃうぞっ」と浅井先生。
「うちのクラスの子が人気で鼻が高いわ、先生。がんばってねー」とまゆ先生。
　持ち時間を綺麗に使って、ウォーキング終了。なかなか評価は上々のようだ。
　そんな北斗に続くのは、野沢 コブラと志田 朝陽。
「俺の褌で学校を元気にできんなら、俺ぁひと肌でもふた肌だって脱いでやらぁ……！」
　真っ赤な褌を翻し、のしのしとプールサイドに現れたコブラ。
　運動部……というわけでもないのに、なんだこのもりもりと盛り上がった筋肉は……！
　北斗の引き締まった身体とはまた違う、鎧のような筋肉に、女の子だけでなく男子からもほほーと声が上がった。
　普段から赤のものを好んで身に付けるだけあって、赤フンもばっちり自分のものにしている。
「ヒュー！　野沢先輩、なんかかっけぇなっ。めっちゃ男らしいわ……！」
「野沢先輩のこの男子心をくすぐる感じなんなんだろうな……！　渋いぜ！」
「あんたらも毎朝コーンフレークを山盛り２杯食ってみな。元気な身体になるからよ」
　そして、その次に出てきた朝陽。
「……ふぅ。控え室にいるより、こっちに来たほうが落ち着くぜ。なんで女の子があんなにいんだよ、くっそ……」
　頭を振る朝陽。
「……って、そんなこと考えてる場合じゃねぇや！　行くぞ！」　
　サッカーボールを頭の上に放り投げて、ポンポンと上手に額を使ってリフティング。
　巧みにボールを操って、サッカーのテクニックと練習で鍛えた身体をオーディエンスにアピールしてみせる。
「わぁ。志田くん、リフティング上手。流石、サッカー部だね」
「いいよねー。身体も締まってるし、見てみて、あのお尻、すっごくキュート……」
　尻には並々ならぬトラウマを抱える彼、尻に刺さる視線にぞぞぞーと寒気が走った。
「し、尻はあんま見るよなっ！」


　＊＊＊


「男は！　黙って！！　九尺！！！」
　九尺の長フンを爽やかな夏の好風にたなびかせ、プールサイドに現れたのは七峯 亨！
　猩々緋の九尺褌と水泳部で鍛えた小麦色の肌とのコントラストがまぶしく光る。
「祭りとありゃ俺が出なくちゃ盛り上がらねぇだろ！」
　歌舞伎の見得切りに始まり、浮世絵風、最後は古代ギリシャの彫像の如く、流れるようにポーズを決めていく。
　たなびく褌をくるくるとまとめあげて、上半身を通してぎゅっと結び、オーディエンスに見せ付ける。
　長身で程良く締まった肉体美に、おおーっ！　と歓声が上がった。
「おおっ！　なんだあいつ、２組の七峯か！　おっもしれぇっ！」
「わっ。意外とカッコイイな……。……けど、七峯くんだからなー……うーん……」
「おい、そこの女子！　七峯くんだからなーってどーいう意味だそれ！」
　黙ってれば普通。口を開けばただのスケベ野郎。つまり残念系男子。ああ、残念系男子……。

　続いての登場は、志波 武道。
　――プールが賑やかでワァイお祭りだ―と思ったら褌だった。何を言っているかわからねぇと思うが、少なくとも俺は理解した！
　眼鏡をきらりと光らせ、武道は真夏の日差しに、ガッチリと引き締まった肉体を晒す。
「……水辺でのマストスタイルはブーメランパンツで揺るがない俺だが、褌の締め付けも……悪くないっ！」
　きゅっとお尻を締めて、ポーズを決める。
「括目せよ！　水泳で鍛えあげたこの筋肉を！」
　割りとすぐ脱いじゃう癖があるだけあり、堂々と脱ぎ慣れたもの。
「志波先輩、いい身体してんなー……やっぱ水泳部ってガッチリ感が違うよなー……」
「眼鏡なのにいい肉……。な、なんて素敵な……！」
　オーディエンスの反応にテンションの上がった彼は、更にここから畳み掛ける。
「脱ぎと言えば、俺。俺と言えば、脱ぎ。褌姿だと俺の十八番ができないと思うじゃなぁい！」
　むんずと褌に手をかける。
「ダガシカシソンナコトハナカッタ！　秘儀！　二枚履きっ！」
　真紅の越中褌の下に漆黒の六尺褌が踊る！
「赤黒チェーーーーーンジッ！！」
　なんたるインパクト。これには、おおおおーーーっ！！　とオーディエンスからも大きな歓声が上がった。
　審査委席の先生方も……。
「志波くんは赤も黒も似合うねぇ。お洒落だねぇ」と校長先生。
「うん。いい上半身だ。立派な身体には、褌がよく似合ってる。いいぞ、志波！」と浅井先生。
「うふふ、志波くんは派手だねー。さすが、うちのクラスの子っ」とまゆ先生。

　お次の登場は、冴木 竜司。
　竜司は燃えるような熱視線を審査員席に……ちょこんと座る担任のまゆ先生に向ける。
　――まゆ先生〜貴女の為にもかっこいい褌姿を見せますよ！　そして優勝したら結婚してください！
　……あ、それと、と。
　――浅井先生、陸上部の威信にかけて優勝するぜ！
　気合いは充分。陸上部で鍛え上げた細マッチョの筋肉美とそれに映える赤褌姿で堂々とアピール。
　しかし、竜司の真骨頂はここから！
「ふふふ、志波よ！　神速脱ぎが君だけの特権だと思うなよ！　……秘技！　褌２枚脱ぎっ！！！」
　その言葉に、今しがたウォーキングを終えたばかりの武道は振り返り、眉を寄せた。
「……な、なに！？」
　グッと褌に手をかけ、するすると回転するコマのごとくほどく。
　キャー！　と上がる女子の悲鳴も一瞬のこと、深紅のサイクロンが渦巻く中央に、藍染の褌の彼が華麗にポージングを決めていた。
　おおおーーっ！！　と上がる歓声。そして、押し寄せる波のように拍手が轟いた。
「おいおい。気が早いぜ、皆！　俺はまだ変身をあと一回残してるんだ！！」
　ババッ！　と藍染褌を脱ぎ捨てる。
　すると、そこにはなんと『まゆ先生ＬＯＶＥ』の文字が踊る褌が！！
「さ、冴木くんったら……。ちょ、ちょっとこんな人がいるところで恥ずかしいでしょー！」
　声を上げるまゆ先生に、グッと親指を立てて、圧倒的勝利を確信したスマイル。
「いや、やったぜ！　……じゃないから！！」
　一体、何をアピールしているのやら……と言った感じだが、おもしろいので、オーディエンスからも笑いが起こった。
　しかし、笑ってない人もここにひとり……。
「りゅ、竜司くんめ……。脱ぎで俺より目立つとは……負けられないじゃない！」
　ぐぬぬ、と拳を握りしめる武道であった。