ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　荒海藤吾は深くなる眉間の皺をそのままに、じろりと目の前の軽い青年を睨めつける。
　この不思議な空間で目覚めた藤吾の目の前には、すでに自分と同じ顔をした青年が立っていた。
　開口一番に言われた台詞を思い返し、藤吾は嫌な予感に気づきつつもしぶしぶ口を開く。
「……もう一度、言ってみろ」
「お前のご先祖様ＤＥＡＨ☆」
「ふざけんな」
　ばちこーん☆　とウインク付きでのたまわれた（しかも二回目）のだ。藤吾がセメント対応になっても仕方がない。
「それで何の用だ」
「子孫に説教しに来た」
　その答えに藤吾は思わず渋面になる。清く正しくとまでは言わないが、彼なりに誠実に生きてきたつもりだ。初対面の先祖に説教される覚えはない。
　彼の反応に先祖は目を細めた。
「説教したいことはたくさんあるがまず言わせろ。いつまで見て見ぬふりを決め込むつもりだ、お前」
　迷いなく心の内側に踏み込まれ、無意識に藤吾の表情が険しくなる。
「俺は何も見て見ぬふりなんかしてねぇ」
　否定は鼻で笑われた。
「まーだそんなこと言うか。んじゃドストレートに言ってやるよ。――お前まだ幼馴染のあの子のことが好きなんだろ」
　その指摘に、どくり、と藤吾の心臓が跳ねた。
「何言ってんだよ、あんた。俺はあいつのことを好きじゃねぇ、あいつはあくまで幼馴染だ」
　返す声は掠れていた。
「へぇ？　じゃあお前があの子に恋人ができたって聞いた時、なんで祝福してあげなかったんだ？　内心はこう思ったんだろ。なんで俺じゃないんだって」
　ずけずけと藤吾の心の内側、その奥にまで踏み込んだ先祖は言い切った。
　ピタリと藤吾の動きが止まる。
「――――」
　目の前で言葉にされて、ようやっと藤吾の心の中にすとんと答えが落ちてきた。なんのことはない。先祖の言葉は目を背けてきた藤吾の本心だったからだ。
「……ああ、その通りだよ」
「やっと認めたな」
　苦い肯定の声に先祖は笑った。藤吾はその笑みから視線を逸らす。
「俺はずっと自分の本心に見て見ぬふりをしてきた。あいつは俺にとって初恋で、今でも好きなんだって。じゃあどうしろっていうんだよ。……今更じゃねぇか」
　気づいた時には幼馴染は知らない男の隣にいた。彼女が藤吾の知らない顔で笑うことを、その日初めて知った。
「んなもん知るか。問題は、お前がどうしたいか、だろ。お前はどうしたいんだ、子孫」
「俺は――」
「悪い。時間切れだ」
　藤吾の答えを遮り、先祖の体がすうと消えて行く。
「――まあ、よく考えるこった。そうじゃなきゃどこにも進めねぇだろ」
　言うだけ言って先祖の姿は掻き消えた。最後まで不敵な笑みを浮かべたままで。
　一人取り残された藤吾は大きくため息をつき、不可思議な色の空を見上げた。
「とっとと帰るなんて薄情な祖先だな」
　思いを自覚したからには藤吾も覚悟を決めなければならないだろう。彼女へ思いを告げるか、何も言わず見守るか。それとも――……？
「答え、出さねぇとな」
　まだ時間はある。藤吾は口の中で幼馴染の名前を呟き、ゆるりと目を閉じた。