ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　不思議な空間で目覚めた晴海飛鳥は、いつの間にやら目の前に現れた少女をまじまじと見ていた。
　このお盆前に自分そっくりの少女が現れる。となれば彼女は飛鳥の血縁――つまりはご先祖様だったりするのんだろうか。
「私はあなたのご先祖様なの」
「あ、やっぱり？」
　意を決して先祖と名乗る少女。対する飛鳥は軽く頷く。
　祖母が拝み屋を生業にしていたためか、飛鳥はこの奇妙なオカルト体験を柔軟に受け入れていた。
　戸惑う先祖を余所に飛鳥はマイペースに質問をする。
「ご先祖様ってどれくらい前の人なの？　ばあばから聞いた話じゃ、うちって古くは落神伝説の頃から島にいたとか言うしさぁ……本当のところはどうなの？」
「記憶違いや伝聞混じりの話になるから教えてあげられないわ」
　ごめんなさいね、と先祖は申し訳なさそうに頭を下げた。
「あれ？　あっさりフツウに謝った……」
　お淑やかな先祖に子孫は首を傾げる。顔は瓜二つだが、あまりにも彼女はフツウすぎるではないか。
「……やっぱり一番変だったのは一番古いご先祖様だったのかな？」
　ぼそりと呟いた飛鳥に先祖はぎょっと目を見張る。
「えっ。私子孫から変人の妻扱いなの？」
「えっ。君ってその人の奥さんなの？」
　どんなに変人だろうと結婚して子供を儲けなければ飛鳥達子孫は存在しない。
（変人よく結婚できたな……）
　思う飛鳥に先祖は告げる。
「飛鳥ちゃん、ちょっと夫に似ているわね」
「……あんまり嬉しくないなぁ。目立ちたがり屋のイイ格好しーで傲慢な人だったらしいって、いい話聞かないよ？」
　手痛いツッコミに先祖はお口にチャック。答えないぞと両手で口元を押さえている。しかしその反応では正解と言っているようなものだった。
「半分くらいは当たってそうだね。やっぱりそういうの出ちゃうんだねぇ、人間性的なのって」
「う……っ」
　いつの間にやら子孫に説教されそうになっていると気づいた先祖は慌てて話題を変えた。
「そ、それより。飛鳥ちゃん、あんまり危ないことに顔は出さない方がいいわよ？」
「それは聞けないなぁ！　オカルトスポット巡りは僕のライフワークだもの！　……まぁ、命は大事にするけどね」
　言って茶目っ気たっぷりに片目を閉じれば、先祖は安心したのかほっと胸を撫で下ろす。
「飛鳥ちゃんは無理な約束はしない子だものね。その言葉信じるわ」
　満足したのか先祖は茄子の精霊馬を手に取ると、それの頭を撫でて牛に変化させる。帰る準備を始める先祖に飛鳥は慌てた。まだまだ聞きたい話があるのに。
「って、もう満足したのー？　もっと図々しくしてよー、というかそのお淑やかさを遺伝させて欲しかったね！」
　先祖はくすくすと笑って可愛い先祖へ手を振った。それを合図に牛がのんびりあの世を目指す。
「……あーあ、行っちゃった。落神伝説の話とか聞きたかったのになぁ」
　飛鳥はそう呟くが残念がってはいない。
「ま、いっか。今年は例年以上にきっちり墓参りしたら、また出てきてくれるかなぁ」
　その時はもっと沢山のことを話そう。楽しいお盆になりそうな予感に飛鳥は思わず笑顔になった。

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