ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　琴櫻輝之助はむすっと目の前にいる自分そっくりな少年を見ていた。
　この不思議な空間で鉢合わせるなり――もっとも向こうは輝之助を探していたのだが――正座させられ酷く真面目に叱られたのだ。むすっとするのも無理はない。
　輝之助を子孫呼ばわりするからには、この自分そっくりな少年はご先祖様なのだろう。
「おい子孫。お前、最近父親を邪険に扱いすぎてんなー。……本当そういうの良くないぜ？」
　目上の、しかも父親を蔑ろにしていることに先祖はご立腹らしい。
「お前が不自由ない生活できるのは父親のおかげだ。敬えとまでは言わないけどな、少しはありがとうって態度に出してみたらどうなんだ？」
　素っ気ない態度を貫く輝之助にやきもきしていた先祖。説教を続ける彼は子孫の親子関係を案じていた。
　しかし自分とそっくりな顔の少年に説教される輝之助の内心は穏やかではない。
（……ってか、ご先祖様ってだけあって顔も喋り方もオイラと超似てる。多分性格も似てるんじゃないの？）
　偶然窓ガラスに映った自分の怒り顔見たことがあったが、今の先祖とその時の自分の表情はそっくりだ。
　そんなことを考え説教を聞き流す輝之助に気づいた先祖はもちろん怒った。
「おい、真面目に聞いてんのか」
「う、うるさいなー！　ちゃんと真面目に聞いてますってー！」
　慌てて輝之助は居住まいを正す。
「……どうして父親にあんな態度取るんだ？」
「だってさ……とーちゃんってば五歳児を相手にするみたいに接してくるし。正直そういうのが嫌なんだよな。友達の前で『輝君』なんて連呼されたりさ……」
　正直あの日ほど居た堪れない日はなかった。友達が『輝君』について一言も触れなかったその気遣いが、逆に痛かった。
「オイラ高校一年生だぜ？　もう子供じゃないんだしさ」
　唇を尖らせる輝之助に先祖は苦笑した。
「どこの親でもそんなもんだ。親からすれば、子供はいつまで経っても子供なんだよ」
「……は？　え、それマジ？」
「マジだ。だからさ、子供のお前が大目に見てやれ。高一なんだ、それくらいの度量あるだろ？」
「……その言い方ずるっこいな」
　言われ、父親への態度について考え始めた輝之助。
　それを見て安心したのか先祖は精霊馬に手をつけた。ナスが瞬く間に大きな牛へと変化する。
「じゃあな子孫！　頑張れよ！　ばいばーい！」
　からっとした気持ちいい笑顔で手を振り、先祖は牛の背に揺られながら大きく手を振った。
「うわぁ、こっちに手とか振ってるし……マジご先祖様なんなの」
　遠くなる先祖の姿を輝之助も手を振り見送る。
　ベタベタしてくる親を倦厭するのは子供にとってはよくあること。それなのに先祖は心配のあまりわざわざ輝之助に会いにきた。――ずっと見守ってくれていたんだろう。
　輝之助は立ち上がり、固まった体をほぐそうとグッと背伸びをする。
「あーあ、正座で説教とか超疲れたぜ。……久しぶりにとーちゃんと二人で飯でも食べにいこっかな……」
　きっと父親は手放しで喜ぶだろう。
　それを想像した輝之助はほんの少しだけ笑うのだった。